宇宙が今の5%だった頃、31個のクエーサーが輝いていた。
要点:欧州宇宙機関(ESA)の望遠鏡Euclidが、宇宙誕生から約6.7億年という最初期のクエーサーを31個報告しました(査読済み・Astronomy & Astrophysics、2026年7月6日)。うち2個は観測史上もっとも古い記録です。ニュースの核は「1個の記録更新」より「まとめて数をそろえた」こと。ただし年齢や明るさは推定を含み、巨大ブラックホールが“早すぎる”という謎はむしろ深まります。
クエーサーを1個見つけた、という話ではありません。今回のニュースの重さは、数にあります。宇宙のいちばん古い時代のクエーサーを、Euclidが一度に31個——それも半分近くを新記録級の遠さで——見つけた。ひとつの珍しい星を拾う段階から、「まとめて調べる」段階へ移りつつある、その一歩の報告です。
クエーサーとは、ブラックホールが飲むときの光
クエーサーは、銀河の中心にある超大質量ブラックホールに大量のガスが吸い込まれるとき、その手前で猛烈に輝く現象です。落ちていく物質が円盤状に渦を巻き、すさまじいエネルギーを光として放ちます。明るさは銀河そのものの数百〜数千倍。宇宙でもっとも明るい天体のひとつで、遠く離れていても届くほどの灯台になります。
その光は、時間をさかのぼる手紙でもあります。遠い天体ほど、光が旅してきた時間だけ「昔の姿」を見せます。宇宙が膨張しているため、遠い光ほど波長が伸びて赤くずれる——これを赤方偏移(せきほうへんい)と呼び、記号 z で表します。z が大きいほど、より古い時代の姿だという目安になります。
なぜ「31個まとめて」が効くのか
これまで、宇宙最初期のクエーサーは“氷山の一角”しか見えていませんでした。とびきり明るい例外だけが拾われ、集団として性質を語るには数が足りなかったのです。z が7を超えるクエーサーは、最初の10個ほどを見つけるのに10年以上かかったといいます。
今回Euclidは、そのz≧7の仲間を1年たらずで12個も追加し、6.6<z<7.8の範囲で計31個を報告しました。これで「これほど古いクエーサー」の既知数はおよそ2倍以上になったとされます。1個ずつの記録更新ではなく、初めて“国勢調査(センサス)”に近い母集団が手に入りつつある、というのが研究チームの言い分です。Euclidは2023年7月に打ち上げられ、最終的に全天の3分の1以上を見渡す広域探査を進めています。広く・深く・鋭く撮れることが、この“数”を可能にしました。
更新された「最古」の記録
集団のなかで飛び抜けて古かったのが、EUCL J172902.75+641018.1(z=7.77)と、EUCL J125308.55+705432.3(z=7.69)の2天体です。いずれも130億光年以上のかなたにあり、宇宙誕生からわずか約6.7億年——今の年齢のおよそ5%——の時代の姿だといいます。それまでの記録は2021年に見つかったz=7.64でしたから、記録がわずかに、しかし確かに更新されました。2番目に古い1個は別チーム(Silvia Belladitta氏ら)が追観測し、活発に星を作る塵とガスに満ちた銀河に埋もれていた様子が示されています。
それぞれの中心核は、太陽およそ1兆個ぶんの光で輝いていたと見積もられています。宇宙がまだ「暗黒時代」から明るく電離した状態へ移り変わる、その入り口の灯りです。
“早すぎる”という、居心地の悪い謎
ここが、ノゾムがいちばん面白がっている部分です。太陽の何億倍もの重さのブラックホールが、宇宙誕生からたった6.7億年で、どうやってそこまで育ったのか。ふつうに考えると、そんなに速くは太れないはずなのです。今回の発見は、この「巨大ブラックホールの成長が速すぎる」という長年の難問を解いたのではなく、対象を増やして突きつけ直したものだと受け止めるのが正確でしょう。数がそろって初めて、「例外の1個」ではなく「そういう集団がいた」と言えるようになる。謎が個人の逸話から、統計の問いへと格上げされた、と言い換えてもいいかもしれません。
では、どこまで「言える」のか
いくつか、線を引いておきます。まず、「約6.7億年」という年齢は、赤方偏移を宇宙膨張の標準的なモデルに当てはめて換算した値です。広く受け入れられたモデルですが、直接ものさしを当てて測った距離ではありません。次に、「太陽1兆個ぶん」という明るさや、そこから推定されるブラックホールの重さは、観測から導いた見積もりであって、目盛りで読んだ数字ではない点も添えておきます。
そして、これはひとつの探査(Euclid Wide Survey)の途中経過です。全天の3分の1を見渡す計画のまだ一部で、母集団の“下書き”が見え始めた段階。今後データが増えれば、31という数も、記録の順位も、書き換わっていくはずです。査読誌に載った確かな一歩ではありますが、完成した地図ではありません。
それでも、と思います。宇宙の夜明けの灯りを、一個ずつ拾うのではなく、まとめて数える。その道具が動き始めた——望遠鏡の名にふさわしいこの前進を、記録の数字の大きさだけで通り過ぎたくないのです。次に届くのは、31が100になり、1000になったとき、あの“早すぎる謎”がどんな形に見えてくるか、でしょう。