まぶしい相棒の陰に、隠れた4つの白色矮星。
要点:英ウォーリック大などのチームが、太陽から65光年(20パーセク)以内にある4組の連星に隠れていた白色矮星を、ハッブル宇宙望遠鏡の紫外線分光で直接とらえたと報告しました(査読済み・MNRAS、2026年7月)。まぶしい赤色矮星の陰に隠れ、可視光では見えなかった“星の亡骸”です。1個は太陽から9番目に近い白色矮星で、確認までに27年かかりました。ただし温度などは推定値で、ご近所の“戸籍”はまだ3割ほどしか調べられていません。
宇宙のいちばん遠い果てではなく、いちばん近いご近所の話です。太陽の周り数十光年——星のカタログなら何十年も前から埋まっているはずの領域に、これまで見落とされていた星が4つ見つかりました。しかも、ふつうの星ではありません。役目を終えて冷えていく“星の亡骸”、白色矮星です。
手がかりは、星の小さな「ふらつき」
白色矮星(はくしょくわいせい)は、太陽くらいの星が一生の終わりに外側を脱ぎ捨て、中心核だけが残った天体です。地球ほどの大きさに星ひとつぶんの質量が詰まった、とても密度の高い“燃えかす”。ひとりぼっちなら紫外線でよく目立つのですが、今回の4個は、いずれも明るい相棒の星と組んだ連星のなかにいました。
きっかけは、相棒の星が見せる小さなふらつき(視線速度の揺れ)でした。星が手前と奥へわずかに行き来して見えるとき、その裏には目に見えない重い天体が回っている——そう疑える合図です。4組はどれも、この「見えない何かが引っぱっている」しるしを示していました。対象になったのは、G 203-47、GJ 207.1、LHS 1817、Wolf 1130 という4つの系です。
なぜ、こんな近くで見落とされたのか
相棒はいずれも赤色矮星(せきしょくわいせい)。小さく暗い星ですが、それでも可視光では白色矮星よりずっと明るく輝きます。星の亡骸のかすかな光は、となりのまぶしさに飲み込まれてしまう。一見すると「ひとつ星の系」に見えていたわけです。第一著者のマイリ・オブライエン博士(ウォーリック大)は、孤立した白色矮星なら簡単に見つかるのに、この4つは相棒の光にかき消されて可視光では見えなかった、と説明しています。
紫外線という抜け道、そしてフレアの罠
そこでチームが使ったのが、ハッブル宇宙望遠鏡の紫外線分光です。白色矮星は熱をもつため、可視光より紫外線でこそ姿を現します。まぶしい赤色矮星の陰から、見る波長を変えることで“亡骸”を引き剥がす作戦です。
ただし、ここに落とし穴があります。赤色矮星は気まぐれにフレア(爆発的な増光)を起こし、そのとき出る紫外線が白色矮星の信号によく似てしまうのです。「見えた」と思ったものが相棒のくしゃみだったら、話は台無しになります。研究チームは独自の較正で紛れを取り除き、4個すべての白色矮星を確からしいものとして確認したと報告しています。派手さはありませんが、ここが今回のいちばん地道で大事な仕事だと感じます。
25光年先、27年越しの答え合わせ
4組のなかでも際立つのが、G 203-47 という系です。太陽からわずか25光年。それなのに、最初に「ふらつき」が報告されてから相棒の白色矮星を確認するまで、27年かかりました。これで正式に、太陽から9番目に近い白色矮星となります。すぐ隣と言っていい距離でも、条件がそろわなければこれほど見つからない、という一例です。
G 203-47 には、もうひとつ腑に落ちない点があります。赤色矮星は白色矮星のまわりを14.9日で一周するのに、自分自身は100日以上かけてゆっくり自転しているのです。ふつう、これほど近い連星なら、月がいつも同じ面を地球に向けるように、潮汐の力で自転と公転が揃うはず。それがずれている。共著者のデイビッド・ウィルソン博士(コロラド大ボルダー校)は、同じ生い立ちならこんなに遅く自転しているはずがない、として、連星ごとに歩んできた歴史が違うのだろうと話しています。荒々しい相互作用でがっちり同期した組もあれば、G 203-47 のように穏やかな出会いで“はぐれた”組もある——そんな読み解きです。
「4〜5個」の予測に、ちょうど4個
今回の意義は、珍しい1個の発見というより、ご近所の“戸籍”を一歩埋めたことにあります。理論の人口モデルは、太陽から20パーセク以内に、こうして近接して回る白色矮星と赤色矮星の組がおよそ4〜5組あるはずだと予測していました。そして今回、ちょうど4組が確認された。予測とよく合った、というわけです。数が理論と噛み合うのは、地味ですが心強いしるしです。
この4個は、いずれも「共通外層」を経た連星だと考えられています。かつて大きく膨らんだ星が相棒を包み込み、やがて外層を吹き飛ばして、白色矮星と赤色矮星が近い距離で残された——そんな激しい過去を生き延びた組み合わせです。
では、どこまで「言える」のか
ここで、慎重に整理しておきます。まず、報告された白色矮星の表面温度(およそ5,300〜6,300度)は、観測したスペクトルにモデルを当てはめて求めた推定値であり、直接ものさしを当てた数字ではありません。次に、今回の“4個”は母集団のごく一部です。チームによれば、太陽から20パーセク以内の赤色矮星のうち、隠れた白色矮星を系統立てて探せたのはまだ3割ほど。ピエール=エマニュエル・トランブレイ教授(ウォーリック大)は、あと9〜10組は見つかるかもしれないと見込んでいます。
つまりこれは、完成した地図ではなく、埋まりかけの一角です。それでも、と思うのです。何十年も歩き慣れたはずの裏庭に、見る波長を変えただけで新しい住人が現れた。遠い宇宙の記録更新もわくわくしますが、すぐそこの夜空にまだ知らない星が隠れている、というこの近さのほうが、私はどこか落ち着かなくて、うれしい。次の紫外線の一撃で、ご近所の“戸籍”がどこまで埋まっていくのか。近いからこそ確かめやすいはずのこの問いを、静かに追いかけたいと思います。