潮汐破壊現象。
潮汐破壊現象(tidal disruption event、TDE)とは、星が巨大なブラックホールに近づきすぎ、引き裂かれて明るく輝く現象。ふだん光らないブラックホールの居場所と重さを推し量れる、数少ない手がかりのひとつ。
名前の「潮汐」は、月が海を引く力と同じ原理を指します。ブラックホールに近い側と遠い側では引かれる強さが違い、その差が星自身の重力より大きくなると、星は形を保てずに裂けてしまいます。この差が効き始める距離は潮汐破壊半径と呼ばれ、星の大きさと密度、ブラックホールの質量で決まります。
裂けたあと、なぜ光るのか
裂けた星のガスの一部は外へ飛び散り、残りはブラックホールの周りを回りながら落ち込んでいきます。このとき円盤状に集まったガスが摩擦や重力エネルギーで高温になり、紫外線やX線を含む強い光を放ちます。数週間から数か月かけて明るくなり、そのあとゆっくり暗くなっていく光り方が特徴で、ときには銀河全体より明るく見えることもあります。恒常的に輝くクエーサーと違い、TDEは一度きりの出来事として過ぎ去ります。
珍しさと、探し方
ひとつの銀河で起きるのはおよそ10万年に一度と見積もられており、それでも年に30件ほど検出できるのは、サーベイ観測が何百万個もの銀河を同時に見張っているからです。長く「銀河の中心でしか見つからない現象」とされてきましたが、これは中心にしか超大質量ブラックホールが無いと考えられてきたことと、中心ばかりを探してきたことの両方によります。2024年以降、中心から離れた場所での報告が現れ、銀河のへりをさまようブラックホールを探す手法として注目されています。
なお、光度・温度・ブラックホールの質量はいずれも観測データをモデルで解釈して得られる推定値であり、幅を持ちます。TDEかどうかの判定にも、増光の様子とスペクトルの両方を突き合わせる作業が要ります。