用語集 — ツギノテ。SCIENCEGLOSSARY

用語集

記事に出てくる言葉を、できるだけやさしく、正確に説明します。定義は一般的な意味を示すもので、詳しくは各分野の一次情報をご確認ください。

DHW
DEGREE HEATING WEEKS
サンゴが受けた高水温ストレスを、平年の夏より高かった分と、それが続いた期間の積み上げで表す指標。単位は「℃週」で、水温の高さと期間の長さの両方が入る。一般に4を超えると白化が始まり、8を超えると大規模な白化と死滅のリスクが高まるとされる。ただし値だけで結果は決まらず、種の組み合わせ、地形や潮の動き、その集団が経験してきた温度履歴によって同じ数字でも被害は変わる。数値を比べるときは、基準にした平年値の期間と、計算に使った水温データが揃っているかを確認する。
立ち上がり時間
RISE TIME
ある量が最終の値まで増えていく過程のうち、中心部分が進むのにかかった時間。始まりは雑音に埋もれ、終わりは「もう止まった」と「まだ少し動いている」の区別が付かないため、全体の20%から80%までのように両端を切り落とした区間で測る。切る位置は分野により10〜90%も使われ、どの区間で測ったかを書かない値は他と比べられない。区間の平均速度は「進んだ量÷その区間の時間」なので、全体の変位を立ち上がり時間で割った値とは一致しない。地震学では断層面の各点がすべり終わるまでの時間を指し、震源過程の解析で基本となる量のひとつ。
掩蔽
OCCULTATION
大きく見える天体が、その背後にある天体を観測者から見て完全に隠す現象。「大きく見える」は実際の大きさではなく視直径のことで、差し渡し27キロの衛星が直径12,742キロの惑星を隠すことも起こる。隠れ始めと現れ終わりの時刻を精密に測ると、手前の天体の位置・形・大きさを詰められる。一方が他方の影に入る食(月食など)、小さく見える天体が大きく見える天体の面を横切るトランジットとは区別する。観測者の位置によって掩蔽になる地点とならない地点が分かれるため、「どこから見たか」を伴わない記述は成立しない。
正の自然選択
POSITIVE SELECTION
ある遺伝的変異をもつ個体が生存や繁殖で有利だったために、その変異が集団のなかで頻度を上げていく過程。有利な変異は周辺の配列ごと運ばれるため、その領域では多様性が低く長い同じ並びが共有される偏りが残り、これをゲノム全体から探すのが選択スキャン。上位◯%という閾値は目立つ領域を選ぶ便宜で、選択の有無を分ける境界ではない。人口の急減や集団の分断も似た信号を作るため、その切り分けが常に課題になる。
見かけの量子効率
APPARENT QUANTUM EFFICIENCY
光触媒に当てた特定波長の光子の数を分母に置き、反応に使われた電子の数を分子に置いた割合。材料が実際には吸わなかった光子も分母に数えるため「見かけの」と付き、吸われた光子だけを分母にする内部量子効率より小さくなる。太陽光のエネルギーのうち何割が燃料の化学エネルギーへ移ったかを示す太陽光水素変換効率とは別の量。1波長での値が高くても、吸える波長の幅が狭ければ太陽光全体では取りこぼす。
水の全分解
OVERALL WATER SPLITTING
犠牲試薬を加えず、水だけを原料にして水素と酸素の両方を同時に発生させる反応。生成した水素と酸素の比が2対1に近いことが、還元側と酸化側が同じだけ進んでいる目印になる。電子を差し出す助剤や引き取る助剤を溶かして片側の反応だけを速く回す半反応の試験は、材料の素性を調べるには有効だが、そのまま実用の性能としては読めない。
真社会性
EUSOCIALITY
繁殖する個体が集団の一部に限られ、残りが繁殖せずに子の世話や採餌を担い、しかも親と子の世代が重なって一緒に暮らす社会のあり方。ハチ・アリ・シロアリで広く知られ、哺乳類ではハダカデバネズミなど報告例がごく少ない。単に群れている、共同で子育てをする、というだけではこう呼ばない。昆虫で働く仕組みをそのまま哺乳類に当てはめて読まないことが要る。
光格子時計
OPTICAL LATTICE CLOCK
レーザー光の干渉で作った格子状の閉じ込め位置に、冷やした多数の原子を並べて抱えさせ、その原子が光を吸う周波数を基準に時を測る時計。可視光の遷移は1秒あたりの刻みがマイクロ波よりおよそ5桁多く、相対不確かさは10のマイナス18乗台が報告されている。原子1個ずつではなく多数を同時に測れるため、短い時間でも数字が落ち着きやすい。正確さと安定度は別の量として語られる。
ディック効果
DICK EFFECT
原子時計が飛び飛びに測るために、測っていない時間(デッドタイム)に起きたレーザーの速い揺らぎが、遅い揺らぎのように誤って現れる現象。動画のコマ数が足りず、速く回る羽根がゆっくり逆回りに見えるのと同じ折り返し。主に削られるのは時計の安定度で、正確さとは別の話。デッドタイムをなくした動作をゼロデッドタイム動作と呼ぶ。
電気受容
ELECTRORECEPTION
水中を伝わる弱い電場を感覚として受け取る働き。生きた動物の筋肉が動くときにもれ出る電気などが手がかりになる。空気はほとんど電気を通さないため、基本的に水の中で成り立つ感覚。自分では電気を出さない受動型(サメ・エイの一部、古い系統の魚、カモノハシ)と、電気器官で電場をつくって周囲を測る能動型(モルミルス類、ギュムノトゥス類)に分かれる。哺乳類では1986年にカモノハシで最初に報告された。
ポリヒドロキシアルカン酸(PHA)
POLYHYDROXYALKANOATE
細菌や古細菌が、余った炭素とエネルギーを蓄えるために細胞の中で合成する高分子。微生物にとっては貯蔵物質で、動物の脂肪に近い役割を果たす。取り出して成形すると生分解性プラスチックになり、食品包装・肥料の被覆・縫合糸などに使われる。自然界の土壌・堆積物・水中にもともと存在するため、石油由来プラスチックの分解の話題とは分けて読む必要がある。
PHYLUM
生物の分類の階級のひとつで、界のすぐ下・綱のすぐ上にあたる大きな括り。ヒトとマグロは同じ脊索動物門だが、昆虫は節足動物門、ミミズは環形動物門、カイメンは海綿動物門と分かれる。「9門にまたがって見つかった」は種の数ではなく分布の広さを言った表現で、系統樹の遠い枝に同じものがある状態を指す。門の数え方は固定されていない。
偽発見率
FALSE DISCOVERY RATE
「有意」と判定したもののうち、実際には効果がないものが混じっている割合の見込み。曝露と結果の組み合わせを一度に何十通りも調べると偶然の当たりが増えるため、ベンジャミニ・ホッホバーグ法などで管理する。抑える水準は研究者が選ぶので、0.05なら20件に1件まで、0.2なら5件に1件までを許すことになる。「補正後も有意」という一文の強さは、どの水準で引いたかを見るまで決まらない。
CD指数
CD INDEX
ある論文や特許が先行研究の流れを断ち切ったか引き継いだかを、後続論文の引き方の内訳から−1〜+1で表す指標。2017年提案。後続論文が「その論文だけ」を引けば+の側、「その論文と、その論文が引いていた古い文献の両方」を引けば−の側に数える。5年ぶん数えたものをCD5と書く。参考文献が1本も登録されていない文献は、被引用が1本でもあれば自動的に最大値+1になるという癖がある。
積雪変質モデル
SNOWPACK MODEL
降った雪が積もってから融けるまでの層ごとの変化を、気温・降水量・日射・風などを入力として計算する数値モデル。積雪の深さだけでなく、各層の密度・含水量・雪の粒の種類まで追う。雪崩の危険度評価から発達し、近年は気候予測データと組み合わせて将来の積雪を見積もる用途にも使われる。多くの場合、人工降雪は計算に入れない。
アブシシン酸(ABA)
ABSCISIC ACID
植物が乾燥などのストレスを感じたときに合成する植物ホルモン。葉の気孔を閉じさせて水分の蒸散を抑える。ただし気孔だけでなく全身で応答を起こし、種子の休眠の維持や生長の抑制まで同時に誘導するため、農業利用では「効く範囲が広すぎる」ことが課題になってきた。
バイオスティミュラント
BIOSTIMULANT
植物がもともと備えている力を引き出して、乾燥・高温・塩害といった環境ストレスへの耐性や生育を高めることを狙った資材の総称。外敵に働きかける農薬とも、栄養を与える肥料とも狙いが異なる。成分ではなく狙いによる区切りのため範囲に幅があり、規制上の扱いも国や地域で差がある。
ウィグナー結晶
WIGNER CRYSTAL
原子やイオンの並びではなく、電子そのものが規則正しく並んでできる状態。密度を薄くするほど電子どうしの反発が優位になり、互いに遠ざかる配置として格子を組むと考えられている。1934年にユージン・ウィグナーが提案。電子の格子を直接写した像ではなく、光の吸収や反射に現れる特徴と理論計算の一致から述べられることが多い。
ポーラロン
POLARON
粒子が周囲の媒質の揺れや変形を引き連れて動くときに、その粒子と「衣」をひとまとめにして数えた準粒子。素の粒子とは実効質量やエネルギーが違うため、別の粒子として扱うほうが見通しがよくなる。まとう相手がフォノンか別の多体系の励起かで呼び名が分かれる。
再現期間
RETURN PERIOD
ある規模以上の洪水や豪雨が平均して何年に1回起こるかを表す指標。「100年に1回」は100年間起きないという意味ではなく、どの年にも1%の確率で起こりうるという意味。観測流量から求める場合と、洪水標や古文書から復元する場合で確からしさが違い、後者は専門家による主観的推定と明記されることがある。
前縁の櫛
LEADING-EDGE COMB
フクロウの最も外側の初列風切羽で、前の縁に細かい歯が並んだ構造。夜行性の種ほど発達すると報告され、飛行音を抑える3つの構造のうち、生きた個体での操作実験がもっとも積まれている。ただし実験の多くは滑空を模した条件で、羽ばたきのときの働きは未解明。
自己マスキング
SELF-MASKING
自分が出す音で、自分が聞き取りたい音が聞こえなくなること。自分の足音で周囲の物音が拾えなくなる状態と同じ。フクロウが静かに飛ぶ理由として、獲物に気づかれないためという説と並ぶもう一方の説だが、どちらが主かは決着していない。
ガルガレシス
GARGALESIS
笑いを伴う強いくすぐり。羽が触れるような軽いくすぐり(クニスメシス)と区別して使う。自分で自分をくすぐっても生じにくく、感覚の現象であると同時に社会的な現象として扱われる。笑いが出ることは、その体験が快いことを意味しない。
身体マップ
BODILY MAP
人体の輪郭図を参加者自身に塗り分けてもらい、感覚や感情が体のどこで生じるかをピクセル単位で集計する手法。実験室で刺激を当てられない対象でも全身を扱えるいっぽう、あくまで自己申告なので、解剖の実測値との突き合わせが要る。
エクソーム解析
EXOME SEQUENCING
ゲノム全体ではなく、タンパク質の設計図になる領域(エクソン)だけを選んで読む方法。ヒトゲノムの1〜2%ほどが対象なので、同じ費用でずっと多くの人を読める。まれな変異を遺伝子単位でまとめて数える解析に向くいっぽう、発現量を調節する領域や繰り返し配列は読めない。
オッズ比
ODDS RATIO
二つの群それぞれで「起こった数÷起こらなかった数」を求め、さらに割り算した値。1より小さければ少ない側。「◯%低い」という言い換えはリスク比の言い方で、発症が珍しくない集団では過大になる。分母が小さいと大きく揺れるため、信頼区間の幅と一緒に読む必要がある。
ファラデー効率
FARADAIC EFFICIENCY
流れた電流のうち、目的の生成物をつくるのに使われた割合。電流の「量」ではなく「行き先」を測る指標。
銀河周縁物質
CIRCUMGALACTIC MEDIUM
銀河の円盤の外側から、その銀河の重力がかろうじて束縛している範囲までを満たす、きわめてうすいガス。温度は数万度から数百万度まで幅があり、可視光ではほとんど見えない。銀河にある星の総量から逆算すると足りない「材料のガス」の置き場所の第一候補とされる。ただし行方不明の物質をすべて説明できるかは未決着。
古代DNA
ANCIENT DNA
遺骨・歯・ミイラ化した組織・堆積物などに残された、時間の経過で断片化し損傷したDNA。多くは100塩基に満たない短い断片で量もごくわずか。現代のDNAが混じり込む汚染に弱く、専用のクリーンルームと検証手順が要る。断片末端に残る特有の損傷パターンが「本当に古いか」の判定材料になる。
分子時計
MOLECULAR CLOCK
遺伝子の変異がおおむね一定の速さで蓄積するという仮定を使い、配列の違いの量から系統が分かれた年代を推定する考え方。速さは種や時期で変わるため、現在は枝ごとの変動を許す緩和分子時計が使われ、推定値は幅で示される。分岐年代と、その系統がある場所へ到達した年代は別のもの。
形状共鳴
SHAPE RESONANCE
回転による遠心力が作る「角運動量の壁」の内側に粒子が一時的に閉じ込められ、本当の束縛状態ではないのに短時間だけ留まる現象。壁は有限なので必ずトンネルして抜け、寿命は有限になる。別の自由度にエネルギーを預けるフェッシュバッハ共鳴とは、閉じ込め方が違う。
交差分子線
CROSSED MOLECULAR BEAMS
細く絞った二本の分子・原子ビームを真空中で直交させ、1回だけの衝突を起こさせて反応を観測する手法。衝突エネルギーと反応物の量子状態を揃えられ、飛び散った生成物の角度と速度から道筋を読み取る。ただし途中の錯体そのものを写しているわけではない。
セントロメア
CENTROMERE
細胞分裂のときに染色体を娘細胞へ正しく分配するための足場となる領域。染色体の図でくびれて描かれる部分にあたる。ヒトでは約171塩基のαサテライトが何十万回もくり返す入れ子構造で、その反復のせいで長らく端から端まで読み通せなかった。
動原体
KINETOCHORE
セントロメアの上に組み上がり、細胞分裂のときに紡錘体の微小管をつかむタンパク質の複合体。DNAの側の領域であるセントロメアとは層が違う。位置は塩基配列そのものではなくCENP-Aを含むクロマチンで指定されると考えられている。
認知オフロード
COGNITIVE OFFLOADING
頭のなかでやるべき処理を、外部の道具や他者に預けて負荷を減らす行動。電卓に筆算を、カーナビに道順を預けるのが典型で、認知心理学では以前から研究されてきた。生成AIで新しいのは、預けられる範囲が記憶や計算から推論・文章・問題解決そのものへ広がった点にある。
脱技能化
DESKILLING
自動化された支援に頼るうちに、支援なしで作業したときの熟練度が下がること。もとは労働研究の用語で、近年はAI支援の医療や教育で測られている。練習の機会が減ることが主な経路と考えられ、支援を外した状態での成績を測らないと見えない。
アイマー器官
EIMER'S ORGAN
モグラ科の動物の鼻先の皮膚に並ぶ触覚センサー。表皮の小さな膨らみ1個ごとに神経終末が束で入り、粒の集合として面の凹凸を読む。1871年にTheodor Eimerが報告。ホシバナモグラでは直径1cmほどの星に約25,000個が並び、10万本を超える有髄神経線維が通う。
触覚のフォベア
TACTILE FOVEA
体表のなかで解像度が特に高く、確かめたい対象へ能動的に向けられる一点。目の中心窩になぞらえた呼び方で、仕組みが同じという意味ではない。ホシバナモグラでは口に近い11番目の突起がこれにあたり、大脳皮質でも不釣り合いに広い面積が割かれている。
マール
MAAR
上昇したマグマが地下水に触れて起こる水蒸気爆発で地面がくり抜かれ、そこに水が溜まってできる円い火口湖。山を作らず穴を残す。ドイツ西アイフェルの地元語がそのまま火山の型名になり、同地には100個を超えるマールがある。世界でもっとも数の多い火山の型のひとつ。
捕獲岩
XENOLITH
上昇するマグマが通り道の岩体から削り取って地表まで運び上げた、由来の異なる岩石の破片。語源は「よそ者の石」。掘れない深さの試料が手に入る点が価値で、(U-Th)/He法を当てれば噴火で急冷した時刻を読める。結晶の形成年代とは別の量である点に注意。
平均への回帰
REGRESSION TO THE MEAN
極端な測定値の裏にある真の値は、測定値より平均寄りである可能性が高いという性質。説明変数の側にランダム誤差があると平均をとっても消えず、関係式に回帰バイアスを残す。誤差が値によって変わる場合はゆがみが非線形になり、分布の端で「頭打ち」に見える形を作ることがある。
宇宙天気
SPACE WEATHER
太陽の活動が太陽風を通じて地球周辺の環境を乱し、送電網・衛星・通信などに影響を及ぼす現象の総称。強い擾乱が磁気嵐。太陽風は地球のはるか上流のラグランジュ点L1で測るため、測った場所と効く場所が離れているという不確かさがつきまとう。
潮汐破壊現象
TIDAL DISRUPTION EVENT (TDE)
星が巨大なブラックホールに近づきすぎ、引く力の差で裂かれて明るく輝く現象。ふだん光らないブラックホールの居場所と重さを推し量れる数少ない手がかりで、一つの銀河ではおよそ10万年に一度と見積もられる。長く銀河中心でしか見つからなかった。
リサイクリングエンドソーム
RECYCLING ENDOSOME
細胞が取り込んだ膜タンパク質を細胞膜へ戻す役割をもつ細胞小器官。受容体などを使い捨てずに回収し、表面に並べる分子の量を素早く調整する。ゴルジ体から積荷を受け取る輸送担体としても働き、その場で新たに形成される過程も報告された。
クラスリン被覆小胞
CLATHRIN-COATED VESICLE
三本脚の単位が組み合わさったクラスリンのかごに覆われた、輸送用の小さな膜の袋。どの荷物を積むかを決めるのはアダプタータンパク質(細胞膜ではAP-2、ゴルジ体から先ではAP-1など)で、被覆は荷物の濃縮と膜の切り離しの両方に関わる。
共通菌根ネットワーク
COMMON MYCORRHIZAL NETWORK (CMN)
一つの菌根菌の菌糸が複数の植物の根に同時に取りつくことで生じる、地下の連絡路。俗に「森のインターネット」とも呼ばれる。「つながっている」「資源が移動する」「送り手が受け手を選んでいる」は別の主張で、支持の度合いも異なる。
引用バイアス
CITATION BIAS
都合の良い結果を示した研究ばかりが繰り返し引かれ、分野全体の証拠が実際より強く見えてしまう偏り。否定的な結果が公表されにくい出版バイアスとは別で、公表後の引かれ方が偏る現象を指す。孫引きのたびに主張が強くなることがある。
パターン認識受容体
PATTERN RECOGNITION RECEPTOR
病原体が共通して持つ分子の「かたち」を見分けて免疫応答を起こすセンサータンパク質。相手を個別に記憶するのではなく、捨てられない構造的特徴を狙う。細胞内で働くNOD様受容体が代表格で、同じ超科のセンサーは細菌にも多数あると報告されている。
バクテリオファージ
BACTERIOPHAGE
細菌に感染して増殖するウイルス。多面体の頭部にゲノムを詰め、尾で宿主に取りつく「有尾ファージ」が研究でよく扱われる。地球上でもっとも数の多い生物学的存在とみなされ、細菌の防御機構との応酬が微生物進化の駆動力とされる。
クライオ電子顕微鏡
CRYO-ELECTRON MICROSCOPY (CRYO-EM)
試料を急速凍結し、弱い電子線で撮った何万枚もの粒子像を計算で重ね合わせて立体構造を求める手法。結晶化が要らないため巨大な複合体や膜タンパク質に強い。得られるのは凍結した瞬間の平均像である点に注意。
ミラー物質
MIRROR MATTER
既知の素粒子それぞれに鏡像のような相棒が存在するという仮説上の物質。通常の物質とはほぼ重力を通じてのみ関わるとされ、暗黒物質の候補として探索されてきた。接点は重力と中性粒子の振動の二つに限られるため、実験は後者を狙う。
超冷中性子
ULTRACOLD NEUTRON (UCN)
極端に速度を落とした中性子。容器の壁で跳ね返るようになるため閉じ込めて長時間観察でき、寿命測定や標準理論の外側を探る精密実験に使われる。大量に作るには大強度加速器が必要で、施設は世界的に限られる。
中性子寿命問題
NEUTRON LIFETIME PUZZLE
自由な中性子の平均寿命が、容器に閉じ込めて生存数を数える貯蔵法(877.75秒)と飛行中の崩壊生成物を数えるビーム法(887.7秒)で約10秒食い違う未解決問題。4.4σ相当の差で、未知の系統誤差か新しい物理かが議論されている。
タンパク質言語モデル
PROTEIN LANGUAGE MODEL
大量のアミノ酸配列を学習させた機械学習モデル。1残基ごとに前後の文脈を含んだ数値表現(埋め込み)を割り当て、構造予測やタンパク質設計の土台になる。学ぶのは自然界の配列の統計なので、人為的に押し上げた性能までは捉えられるとは限らない。
de novo タンパク質設計
DE NOVO PROTEIN DESIGN
自然界の配列を出発点にせず、望みの構造や機能を指定してゼロから新しいタンパク質を設計する手法。生成の時点で長さが決まるため後からの改変は主に置換に限られる点で、既存分子を鋳型に改造する「鋳型ガイド設計」と対照的。
磁気受容
MAGNETORECEPTION
動物が地球の磁場を感じ取る能力。進む向きを知る「方位磁針」としての使い方と、いまいる場所を知る「地図」としての使い方があり、ウミガメではこの二つが別々の仕組みで動いていると報告された。受容器そのものは多くの動物で特定されておらず、「受容器の見つからない感覚」と呼ばれてきた。
ラジカルペア機構
RADICAL-PAIR MECHANISM
光に反応する分子の中で生じた電子対(ラジカルペア)の状態が、磁場の向きによってわずかに変わることを利用した磁気受容の候補。渡り鳥の方位感覚の説明として有力視されてきた。特定周波数のラジオ波の振動磁場をかけると乱れると予測されるため、この処理が効くかどうかで他の仕組みと切り分けられる。
超イオン伝導体
SUPERIONIC CONDUCTOR
固体でありながら、内部のイオンが液体のように高速で移動できる物質。結晶の骨格は保たれたまま、伝導を担う一部のイオンだけが動き回る。液体の電解液を使わない全固体電池の要となる材料として研究されているが、なぜ速いのかを物質ごとに解く形が長く続いてきた。
副格子融解
SUBLATTICE MELTING
結晶全体の構造は保たれたまま、その一部のイオン(副格子)だけが規則的な配列を失い、液体のように運動しはじめる状態。超イオン伝導を引き起こす重要な物理現象の一つと考えられている。全体が溶けるふつうの融解と違い、骨格と流れる部分が同じ物質の中で共存する。
土壌有機物
SOIL ORGANIC MATTER
土の中にある、生物由来の炭素を含む物質の総称。落ち葉や根、微生物の遺骸とその分解物からなる。微生物がすぐ食べる成分と、何十年も居座る「持続的」な成分に分けて考えられてきたが、この区分は環境条件や観測する時間の長さによって揺らぐと見られている。
気候フィードバック
CLIMATE FEEDBACK
気温の変化が引き起こした現象が、さらに気温の変化を強めたり弱めたりする仕組み。水蒸気の増加や雪氷の融解、土壌からのCO2放出などが代表例。数年で現れるものと数十年かけて姿を見せるものがあり、短い観測期間では「働いていない」と誤読されやすい。
地球温暖化係数
GLOBAL WARMING POTENTIAL (GWP)
ある温室効果ガス1トンが一定期間にもたらす温暖化の効果を、同じ重さのCO2の何倍かで表した指標。100年値(GWP100)が広く使われ、IPCC第6次評価報告書ではメタンが約27〜30、亜酸化窒素が273。対象期間や参照する報告書によって数値が変わるため、比較のときは条件を揃える必要がある。
ゼオライト
ZEOLITE
内部に分子ほどの大きさの細孔が規則的に並ぶ、ケイ素・アルミニウム・酸素からなる結晶。分子を大きさでふるい分けられるうえ、白金などの金属を細かく分散して載せる担体にもなるため、石油精製や排ガス浄化の触媒に広く使われる。HZSM-5やBetaは骨格構造の型を指す呼び名。
褐色矮星
BROWN DWARF
恒星になりきれず、惑星よりは重い中間的な天体。核融合を持続できるほどの質量がなく、生まれたときの熱でゆっくり冷えていく。褐色矮星自身が恒星を回る「伴星」として振る舞うこともあり、近年はそれをさらに周回する天体も報告されている。
量子もつれ
QUANTUM ENTANGLEMENT
複数の粒子が、個別には決まらない一体の状態として振る舞う量子力学的な現象。通常は数個〜数十個規模の隔離された系で作られるが、近年は「量子フィッシャー情報量」という指標を使い、目に見える大きさの固体の中でも間接的に検出できることが報告された。
周期ゼミ
PERIODICAL CICADA
北米に生息し、13年または17年に一度、決まった年にまとまって地上へ出てくるセミの仲間(Magicicada属)。出現年には狭い地域に数十億匹があふれることがある。毎年少しずつ羽化する日本のセミとは出方が大きく異なる。
超放射
SUPERRADIANCE
十分な速さで回転する物体に適切な波が当たると、物体からエネルギーを受け取って増幅される現象。ブラックホールのペンローズ過程を波に拡張した予測で、装置による「合成回転」でも再現が報告された。
タウオパチー
TAUOPATHY
タウタンパク質が異常にリン酸化・凝集し、神経細胞を傷つける一群の神経変性疾患の総称。アルツハイマー病はその代表例。タウの量ではなく「量に応じた効き方の違い」を持つ調整タンパク質の研究が進む。
タウシーディング
TAU SEEDING
異常な構造になったタウが「種」となり、周囲の正常なタウを取り込みながら凝集を連鎖的に広げていく現象。タウ病理が脳の中で広がっていく仕組みの一つとされる。
CRISPR-Cas9
CRISPR-CAS9
狙った場所のDNA配列を切り、書き換えられる遺伝子編集の技術。目印となるガイドRNAで切断場所を指定し、Cas9というハサミ役のタンパク質が働く。動物種をまたいで特定の遺伝子変化を再現する実験にも使われる。
トポロジカル絶縁体
TOPOLOGICAL INSULATOR
内部は電気を通さない絶縁体なのに、表面や縁の部分だけは電気をよく通す物質。その通り道は、物質の電子状態がもつ「型(トポロジー)」に由来するため、多少の乱れや汚れがあっても壊れにくい。結晶の対称性が通り道を守るものは特に「トポロジカル結晶絶縁体(TCI)」と呼ばれ、次世代の低消費電力エレクトロニクスやスピントロニクスの土台として研究が進む。
光スカイミオン
OPTICAL SKYRMION
光のさまざまな性質(スピンや偏光、電場・磁場の向きなど)が空間の中で描く、渦を巻いた模様のこと。もとは素粒子・原子核物理で提案され、磁石などの物質を経て、近年は光の分野に広がった。引き伸ばしても型が崩れないトポロジカルな安定さをもち、情報を担わせる器として期待されている。
ポアソンの輝点
POISSON SPOT
丸い物体にレーザーなどの光を当てたとき、その影のちょうど中心に現れる小さな明るい点。1818年、光の波動説を否定するために予測されたが、実験(アラゴ)で実在が確かめられ、逆に波動説を裏づけた。光が波として物体の縁を回り込む「回折」の代表例。アラゴの輝点とも呼ばれる。
食物網
FOOD WEB
ある場所で「食べる・食べられる」の関係を、たくさんの生きものについて網の目のように結んだつながりのこと。一本道の「食物連鎖」より現実に近く、地上と地下、植物と動物といった離れた場所も一枚でつながる。たとえばセミは、地中の幼虫も地上の成虫も、鳥や哺乳類など多くの生きものに食べられ、森の食物網の結び目になっている。
メラニズム
MELANISM
体表の色素(とくに黒っぽいユーメラニン)が多くなり、体の色が全体に黒っぽくなる現象。黒ヒョウ(黒化したヒョウやジャガー)や黒猫がその例。原因となる遺伝子の変化は種によって異なり、ネコ科では独立に何度も生じたと報告されている。逆に色素が極端に少ない状態はアルビニズム。
非アグーチ
NON-AGOUTI
毛の一本に明暗の縞をつくる「アグーチ」のしくみが働かなくなった状態。飼い猫では色素のブレーキ役ASIP遺伝子の2塩基欠失で起こり、毛が縞にならず全身が黒くなる。劣性のため、壊れた型をペアで受け継いだ猫だけが真っ黒になる。
白色矮星
WHITE DWARF
太陽くらいの星が一生の終わりに外層を失い、中心核だけが残った高密度の天体。地球ほどの大きさに星ひとつぶんの質量が詰まる“星の亡骸”。熱をもつため紫外線で目立つが、明るい相棒の星があると可視光では隠れてしまうことがある。
視線速度
RADIAL VELOCITY
星が観測者に対して近づく・遠ざかる方向の速さ。目に見えない伴星や惑星が周回していると、その重力で星が手前と奥へ小さく“ふらつき”、光のわずかな波長変化として測れる。見えない天体の存在を探る手がかりになる。
酵素的DNA合成
ENZYMATIC DNA SYNTHESIS
生きた細胞がDNAを組み立てるのと近いやり方で、水の中で酵素を使い一塩基ずつDNA鎖を伸ばす人工合成法。有機溶剤に頼る従来法より穏やかだが、並行して作れる本数を伸ばすのが課題とされてきた。
脱保護
DEPROTECTION
DNAを一塩基ずつ合成する際、伸びすぎを防ぐため各塩基に付けた「仮のフタ(保護基)」を、次の塩基を足す前に外す工程。水中では酸性にする(pHを下げる)ことで引き金を引ける。
クエーサー
QUASAR
銀河の中心にある超大質量ブラックホールへ大量の物質が落ち込むとき、その手前で猛烈に輝く現象。宇宙でもっとも明るい天体のひとつで、遠い昔の宇宙を照らす灯台になる。
赤方偏移
REDSHIFT
宇宙膨張により、遠い天体ほど光の波長が伸びて赤くずれる現象。記号 z で表し、値が大きいほど遠く(=より昔の)姿を見ていることを示す目安になる。
再電離
EPOCH OF REIONIZATION
宇宙が冷たく暗い「暗黒時代」から、最初の天体の光で水素が再び電離した明るい状態へ移り変わった時代。初期宇宙の重要な転換期とされる。
洞察的問題解決
INSIGHT PROBLEM-SOLVING
試行錯誤の繰り返しではなく、別々に得た知識を結びつけて、初めての課題の解に一気に到達すること。ケーラーのチンパンジー実験に由来し、内面の解釈には慎重さが要る。
量子誤り訂正
QUANTUM ERROR CORRECTION
多数の物理量子ビットに情報を分散して符号化し、量子情報そのものを壊さずにエラーを検出・訂正する仕組み。表面符号やカラー符号が代表例。
強化学習
REINFORCEMENT LEARNING
正解を教え込むのではなく、行動して得られる結果(報酬)を手がかりに、試行錯誤でより良い判断を学ぶ機械学習の一種。探索と活用のバランスが要点。
ウルトラホットジュピター
ULTRA-HOT JUPITER
主星のごく近くを公転し、表面が極端な高温になる巨大ガス惑星の総称。潮汐固定で昼側と夜側がはっきり分かれるものが多い。
トランジット
TRANSIT
惑星が主星の手前を横切り、主星がわずかに減光する現象。この間、主星の光が惑星の大気を通り抜けるため、透過分光で大気の組成を調べられる。
ターミネーター
TERMINATOR
惑星の昼と夜の境目となる帯(明暗境界線)。地球でいう朝焼け・夕焼けの線にあたり、大気の観測で朝側と夕側を分けて調べる対象になる。
査読
PEER REVIEW
論文の内容を、同じ分野の専門家が公表前に評価・検証する仕組み。査読を経た論文は一定のチェックを受けているが、正しさを保証するものではない。
プレプリント
PREPRINT
査読を受ける前の段階で公開される論文原稿。速報性は高いが、専門家のチェックをまだ受けていない点に注意が必要。
再現性
REPRODUCIBILITY
同じ方法で実験・分析をやり直したとき、同様の結果が得られる度合い。科学的な確からしさを支える重要な性質。
DOI
DIGITAL OBJECT IDENTIFIER
論文などの学術資料に付けられる恒久的な識別子。出典を正確にたどるために用いられる。
バイオシグネチャー
BIOSIGNATURE
生命の存在や活動を示唆しうる指標(特定の分子や痕跡など)。検出は必ずしも生命の証明ではなく、慎重な解釈が求められる。
メタアナリシス
META-ANALYSIS
複数の研究結果を統計的に統合し、より確からしい傾向を導く分析手法。個々の研究より強い証拠とされることが多い。