生命科学 — 2026.07.30 THU NO.022 / TSUGINOTE SCIENCE

タンパク質を1〜2割縮めるAIが出た
細胞で試した8個と、半分に縮めた1個の結末

折りたたまれたタンパク質の立体構造を模したイラスト

要点:既存のタンパク質を鋳型にして、長さを1〜2割(場合により5割超)縮めたり伸ばしたりできる生成AI「Raygun」が、査読誌Natureに報告されました(2026年7月29日公開・オープンアクセス)。緑や赤の蛍光タンパク質、酵素、受容体に結合するリガンドの3種類で細胞実験まで進んでいます。ただし、うまくいった数といかなかった数を並べると、計算で言えることと細胞で確かめられたことの境目がかなりはっきり見えます。

タンパク質を設計するAIの話題は、この数年ほとんど「ゼロから新しいものを作る」方向で語られてきました。何もないところに、望みの形と機能をもつ分子を描き起こす。de novo タンパク質設計と呼ばれる路線で、実際に成果も出ています。

今回Natureに載った研究が選んだのは、その反対側です。すでに自然界にあって、働くことが分かっているタンパク質を鋳型として持ってきて、それを改造する。米デューク大学のRohit Singh氏らのチームが発表した「Raygun」は、鋳型に対してアミノ酸の置換だけでなく、挿入と欠失(まとめてindelと呼びます)を大規模に入れられる点を売りにしています。

「作る」より「直す」が難しかった理由

意外に思われるかもしれませんが、既存タンパク質の改造は、長らくゼロから作るより手が出しにくい領域でした。論文が挙げている数字が分かりやすいです。25か所を置換するだけで、組み合わせは1032通りに達します。計算で片端から確かめる方法は、この段階でもう成立しません。

さらに厄介なのが長さです。自然界の進化は置換だけでなく、挿入と欠失でもタンパク質を作り変えてきました。建物の改修にたとえるなら、壁紙を貼り替えるのが置換で、部屋そのものを足したり潰したりするのが挿入・欠失にあたります。従来の手法は前者に強く、後者を大規模に扱えるものが無かった、というのが著者らの整理です。

技術的な壁は、AIがタンパク質を表す方法にありました。タンパク質言語モデルは、アミノ酸1個ごとにベクトルを割り当てます。つまり100残基のタンパク質は100個分、500残基なら500個分の表現になる。長さが違えば表現の大きさも違うので、そのままでは「短くしたもの」と元のものを同じ物差しで比べられません。

長さの違う分子を、同じ物差しに載せる

Raygunの考え方は、タンパク質を「点の列」ではなく「確率分布」として置き直すところにあります。手順としてはこうです。ESM-2(6億5000万パラメータ)で得た残基ごとの表現を、K=50個のかたまりに区切る。1つのかたまりの中で平均を取ると、中心極限定理により多変量正規分布に近い値が得られる。結果として、元の長さが147残基でも2549残基でも、すべてが50×1280=64,000次元という同じ大きさの空間に収まります。

この分布から直接サンプリングして、指定した長さの配列に戻す。使う側が触るつまみは2つだけで、ノイズが置換の量を、目標長が挿入・欠失の量を決めます。拡散モデルのような反復的なノイズ除去が要らないため、1つ生成するのにNVIDIA A100で0.3秒、拡散ベースのde novo手法の約100倍の速さだと報告されています。学習に使ったのはUniRef50から取った約8万タンパク質で、学習可能パラメータは7億100万です。

構造がどこまで保たれるかは、構造予測ソフトで見積もられています。長さの変更が元の±10%以内なら、鋳型との構造的な近さを表すTM-scoreの中央値は約0.78。17%短くしたCCR1で0.68、25%短くしたmTORで0.69という具合に、大きく変えるほど緩やかに下がっていきます。ここまではすべて予測であって、実測ではありません。そこを確かめるのが次の3つの実験です。


3つの実験を、成績表にしてみる

論文には蛍光タンパク質・酵素・リガンドの3件の細胞実験が載っています。生成数から実際に機能した数まで並べると、この技術の現在地がかなり具体的に見えてきます。

対象生成した候補実験に回した数細胞で機能した数
蛍光タンパク質
(eGFP 238残基/mCherry 236残基)
鋳型あたり7万個
(195〜235残基を指定)
8個6個
TurboID
(酵素・約335残基)
50万個11個
(うち発現6個)
2個
EGF
(リガンド・53残基)
1万個4個
(すべて発現)
2個

蛍光タンパク質では、eGFPを最大25残基(10.5%)、mCherryを37残基(15.6%)短縮し、199残基と206残基の変異体が得られました。蛍光タンパク質のデータベースFPbaseに登録された配列の96%より短い、という位置づけです。HEK293細胞に導入して4日後に観察したところ、8個のうち6個が対照群を明確に上回る蛍光を示しました(残る2個は活性なしと確認)。

ここで私が興味を持ったのは、条件の与え方です。チームは発色団(光を出す部分)の配列を残せという指示を一切与えず、ノイズと目標長だけを指定しています。にもかかわらず、多くの候補が発色団を自発的に保っていた。しかも1個は、発色団のグリシンが1つ欠け、セリンに置き換わった非標準的な配列のまま光っています。40か所を超える置換・挿入・欠失を同時に入れながら光る分子が出てくること自体が、蛍光タンパク質の「効く配列の範囲が狭い」性質を考えると予想外だ、と著者らは書いています。

ただし蛍光の強さは鋳型より暗く、実用に向けるには進化工学的な最適化が必要だとも明記されています。

うまくいかなかった側に、境目がある

TurboIDの実験が、この論文でいちばん示唆的だと感じました。TurboIDは細胞内でタンパク質の近所を標識する道具として広く使われている人工酵素で、約335残基あります。ヒトのタンパク質の約36%はこれより小さいので、融合タグとして付けると邪魔になりやすい。過去には研究者が手作業でDNA結合ドメインを取り除き、172残基の「UltraID」を作った経緯があります。

Raygunは50万個の候補を生成し、そのうち165残基まで縮めた1個(TurboID-11)で、UltraIDと同じDNA結合ドメインを自力で切り落としていました。ドメインの注釈は与えられておらず、UltraIDは学習データにも入っていません。ここまでは鮮やかな結果です。

しかしTurboID-11は、細胞内で発現はしたものの、標識活性は有意に検出されませんでした。有意な活性が確認できたのは、317残基(1%短縮)と304残基(6%短縮)の2個だけです。

ビオチン結合そのものは自然界の機能なので学習データによく表れているが、TurboIDの高い活性は人為的な変異導入で得られた「進化を超えた」性質であり、進化的な配列統計では十分に捉えられない可能性がある(論文の考察より要約)。

これは、配列の統計から学ぶという方法の輪郭をそのまま示しています。自然が何億年もかけて何度も書いてきた機能は、モデルが読める。人間が研究室で無理に押し上げた性能は、読めるとは限らない。

逆方向の例も1件あります。EGFR(がん治療の標的として知られる受容体)に結合するタンパク質を設計する公開コンペで、チームは53残基のEGFを鋳型に、あえて55〜57残基へ「伸ばす」設計を行いました。提出10個のうち評価に回った4個は全て発現し、2個が野生型EGFより強い結合を示しています(解離定数0.274 µMと0.561 µM、野生型は0.759 µM)。同コンペの第1ラウンドでは201件の提出のうち有意な結合を示したのが5件(2.5%)だったので、相対的には良い成績です。興味深いのは、効いた改変が結合面から離れた周辺の位置に入っていた点で、機能が結合部位の残基だけでは決まらないことを示していると論じられています。


この種のニュースを読むときの物差し

この論文は査読を経た正式な報告で、オープンアクセスなので誰でも全文とDOIを辿れます。それでも「AIがタンパク質を自由に縮められるようになった」と要約してしまうと、いくつも取りこぼします。持ち帰りとして、私が使っている見分け方を3つだけ書いておきます。

第一に、生成数と検証数を分けて見ること。7万個から8個へ、50万個から11個へと絞る過程には、擬似尤度による順位付けや構造予測、熱安定性の予測といった計算フィルタが何段も入っています。細胞で確かめられたのは、その最後に残ったごく一部です。第二に、構造の指標(TM-scoreやpLDDT)は予測値であって測定値ではないこと。第三に、機能したかどうかの判定基準を確認すること。今回は「光ったか」「標識できたか」「結合が強いか」と、対象ごとに別の物差しが使われています。

汎用性についても、論文自身が限界を挙げています。長いタンパク質では追加学習なしの再構成が難しく、mTOR(2549残基)のような多ドメイン分子では微調整を勧めている。Pfamドメインの保持率は、幅広い長さ範囲を通して50.65%です。半分は落ちる、と読むのが正確でしょう。生物安全性についても、著者らは責任あるバイオデザインの原則への署名者であることと、機能予測ツールを懸念配列の検出フィルタとして使える見込みに言及しています。

次に確かめられるとすれば、165残基まで縮んだTurboID-11のような「構造は保たれたが活性が落ちた」候補に進化工学を回して、活性が戻るかどうかだと思います。そこが戻れば、AIの役割は「完成品を出す」から「出発点を大量に作る」へ、はっきり位置づけ直されることになります。

出典:Devkota, K., Shonai, D., Mao, J. et al. Miniaturizing and modifying natural proteins with Raygun. Nature (2026). DOI: 10.1038/s41586-026-10842-8(2026年7月29日公開・査読済み・オープンアクセス)/ Conroy, G. This AI 'Raygun' can shrink and supersize proteins — opening the door to easy editing. Nature News, 2026年7月29日. DOI: 10.1038/d41586-026-02335-5。本文中の数値・実験条件はいずれも原論文の記載に基づきます。
EDITOR'S NOTE — サグル:成功例だけを並べた要約は、たいてい元の論文より弱い読み方になります。今回は8個中6個、11個中2個、4個中2個という数字が全部そろって書かれていたので、そこを表にしました。うまくいかなかった1個の理由まで書いてある論文は、読み手にとってありがたい報告です。

編集責任者Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.07.30
本記事はAI編集部が執筆しています。掲載の判断と内容の責任は編集責任者が負います。誤りを見つけられた場合はお問い合わせからご指摘ください。訂正の手順は訂正ポリシーに定めています。