生きもの — 2026.07.30 THU NO.021 / TSUGINOTE SCIENCE

ウミガメは地磁気の地図を見ているのか、感じているのか
手がかりは子ガメの「ダンス」だった

夜の海を泳ぐウミガメの子ども。地磁気を手がかりに進む方向と位置を知るしくみを描いたイラスト

要点:アカウミガメ(Caretta caretta)は、地磁気を「方位磁針」(進む向き)と「地図」(いまいる場所)の二通りに使うと考えられてきました。2025年2月の査読論文(Nature)は、子ガメが場所ごとの磁場を学習して区別できることを実験で示し、あわせて方位磁針と地図が別々の仕組みで動いている証拠を報告しました。同年11月の査読論文(Journal of Experimental Biology)は、地図のほうが磁鉄鉱を介して「感じる」型の受容に少なくとも部分的に依っているという結果を報告しています。ただし後者の学習個体は8匹と少なく、実験はすべて水槽内。ほかの感覚が関わる余地も著者自身が残しています。

夏の夜、砂の中から出てきた子ガメが海へ向かって歩き出します。波を越えたあとは何年も、ときには何十年も、外洋を回りながら育ちます。そして大人になると、自分が生まれた海岸のあたりへ戻って産卵する個体がいます。

この道のりを支えている手がかりの一つが、地球の磁場(地磁気)です。ここまではよく知られた話です。私が気になっていたのは、その先にある地味な問いでした。「北はこっち」と分かることと、「いま自分はここにいる」と分かることは、まったく別の能力です。前者は方位磁針で足りますが、後者には地図が必要です。ウミガメは、その両方を持っているのでしょうか。持っているとして、同じ器官で読んでいるのでしょうか。

地磁気には、場所ごとの「指紋」がある

地磁気は地球のどこでも同じ強さ・同じ向きではありません。方位磁針の針が水平からどれだけ傾くか(伏角)は赤道付近でほぼ0度、極に近づくほど大きくなります。磁場の強度も場所によって違います。この二つを組み合わせると、海の上の広い範囲について、場所ごとに少しずつ違う値の組が得られます。地磁気の「座標」として使えるわけです。

地磁気の二つの値が、場所ごとの組をつくる(模式図・実測値ではありません) 赤道側 極側 伏角 磁場強度 海域A 海域B ※ 二つの値の組み合わせが海域ごとに違うため、「場所の目印」として使える

ウミガメがこの座標を使っているらしいという報告は、20年以上前からありました。人工的に磁場を変えると子ガメが向きを変える、という実験です。ただ、そこには長く空白が残っていました。地図を使って目的地へ向かうには、目的地の磁場の値を覚えていなければならない——この、いちばん土台にあたる前提が、実は直接には試されていなかったのです。

まず確かめられたのは「覚えられる」こと

ノースカロライナ大学チャペルヒル校のKayla M. Goforthさんらは、2025年2月12日に公開されたNatureの査読論文で、この前提を試した結果を報告しました。方法は、意外なほど素朴です。

特定の海域に実在する磁場を装置で再現し、その中で若いアカウミガメに繰り返しエサを与えます。別の海域の磁場のときにはエサを与えません。これを続けたあと、エサなしで磁場だけを与えてみる。すると子ガメは、エサをもらえた磁場のときにだけ、体を斜めに持ち上げて口を開き、前脚をばたつかせる動きを見せたと報告されています。研究チームはこれを「ダンス」と呼んでいます。

「彼らはとても食欲旺盛で、エサをもらえる見込みがあると思うと、喜んでダンスをするのです」——Alayna Mackiewiczさん(ノースカロライナ大学チャペルヒル校)/Journal of Experimental Biology プレスリリース(2025年11月20日)より

愛らしい動きですが、中身は条件づけによる摂餌期待の行動です。パブロフの犬がベルの音で唾液を出したのと同じ枠組みで、合図の側が「場所の磁場」に置き換わっている。ここで大事なのは、子ガメが磁場の値を区別し、記憶していたという事実です。生まれつきの反射では説明がつきません。

二つのセンスを、電波で切り分ける

同じ論文には、もう一段の仕掛けが入っています。動物が磁場を感じる仕組みの候補は、大きく二つに分かれると考えられてきました。

  • ラジカルペア機構——光に反応する分子の中で生じた電子対の状態が磁場でわずかに変わる、という化学的な経路。「磁場を見る」型。
  • 磁鉄鉱ベースの受容——体内にある微小な磁性鉱物(磁鉄鉱)が磁場の中で動き、その力を感覚細胞が拾う、という物理的な経路。「磁場を感じる」型。

ラジカルペア機構には弱点があります。特定の周波数帯(ラジオ波)の振動磁場を当てると、はたらきが乱れると予測されているのです。そこでチームは、ラジオ波の振動磁場をかけた状態で二種類のテストを行いました。結果は次のように報告されています。

テストの中身ラジオ波の振動磁場をかけるとそこから言えること
学習した「場所の磁場」を見分ける(地図)反応は乱れなかった地図のほうはラジカルペア機構に依っていないらしい
決まった方角へ向く(方位磁針)行動が乱れた方位磁針のほうはラジカルペア機構に依っているらしい

同じ「磁気を感じる力」をひとまとめに語れない、ということです。同じ動物の中で、地図と方位磁針が別々の仕組みで動いている証拠が示されたと論文はまとめています。


では、地図のほうは何で読んでいるのか

ラジカルペア機構でないなら、残る有力な候補は磁鉄鉱です。ただ「消去法でそうらしい」で止めるのは、慎重さに欠けます。この点を正面から試したのが、2025年11月20日に公開されたJournal of Experimental Biologyの査読論文(Mackiewiczさんら)です。

手続きはこうです。生まれたばかりのアカウミガメ8匹に、カリブ海のタークス・カイコス諸島付近に相当する磁場のもとでエサを与え続けます。期間は2か月。別のグループにはハイチ付近の磁場を覚えさせました。それから一匹ずつ大きなコイルに入れ、強い磁気パルスを当てます。磁気パルスは、体内の磁鉄鉱の並びを一時的に乱すために使われる手法です。もし磁鉄鉱で「感じて」いるなら、パルスのあとは覚えた磁場が分からなくなるはずです。

結果として、パルスを受けた子ガメはダンスの頻度が下がったと報告されました。地図の感覚は、少なくとも部分的に磁鉄鉱ベースの受容器に支えられている——著者らの解釈はここに落ち着いています。

ここまでが「言えること」、ここからが宿題

読み方には、いくつか線を引いておきたいところがあります。

まず規模です。2か月かけて訓練した個体は8匹。行動実験としては手間のかかる規模ですが、統計としては小さい数です。著者らも、ほかの感覚が場所の判断に関わっている可能性を否定していません。「感じることが不可欠な要素である」という言い方にとどめています。

次に場所です。これらはすべて水槽と装置の中の話で、外洋を泳ぐ子ガメを追いかけて確かめたわけではありません。エサを覚えた磁場を見分ける力が、そのまま何千キロの回遊に使われていると証明されたわけでもありません。研究チームが示したのは「その力がある」ことで、「その力で渡っている」ことは別の検証が必要です。

さらに、磁気パルスが体の中で正確に何を壊したのかも、直接見えているわけではありません。磁鉄鉱を含む受容器そのものが、ウミガメでまだ特定されていないのです。磁気受容は「受容器の見つからない感覚」と長く言われてきました。パルスで反応が落ちたという行動の観察と、磁鉄鉱が実際にどこにあるかという解剖学の答えは、まだつながっていません。

ちなみにこの研究は、米空軍科学研究局(AFOSR)の助成を受けたものとして公表されています。生きものの研究がどこから資金を得ているかも、私は書き添えておきたいと思っています。

身近で、確かめられること

日本の太平洋沿岸でも、アカウミガメは5月から8月ごろに産卵します。いまはちょうど、砂の中で卵が育っている時期です。地磁気の話とつなげて一つだけ気にしてほしいのは、です。孵化した子ガメが海へ向かうとき、最初の頼りは磁場ではなく、明るい方向——本来は波が反射する海面の明るさです。海岸沿いの照明が強いと、そちらへ歩いてしまう例が世界中で報告されています。磁気の地図を使うのは、海へ入ったあとの話なのです。

産卵地の観察は、多くの海岸で保護団体がルールを定めています。訪ねるときは現地の案内に従い、砂浜に強い光を向けないこと。そこから先の何千キロは、子ガメの体の中の、まだ誰も見つけていない小さな磁石にゆだねられています。

出典:Goforth, K. M. et al. "Learned magnetic map cues and two mechanisms of magnetoreception in turtles." Nature 638, 1015–1022 (2025)、2025年2月12日公開・査読済み。DOI: 10.1038/s41586-024-08554-y/Mackiewicz, A. G., Glazener, A. M., Goforth, K. M., Lim, D. S., Lohmann, C. M. F. & Lohmann, K. J. "Disruption of the sea turtle magnetic map sense by a magnetic pulse." Journal of Experimental Biology 228, jeb251243 (2025)、2025年11月20日公開・査読済み。DOI: 10.1242/jeb.251243/The Company of Biologists プレスリリース「Mystery of how turtles read their magnetic map solved: they feel the magnetism」(2025年11月20日、EurekAlert! 掲載)/ノースカロライナ大学チャペルヒル校 プレスリリース(2025年2月13日)。※本文の伏角・磁場強度の図は関係を示す模式図で、実測値のプロットではありません。
EDITOR'S NOTE — メデル:口を開けて前脚をばたつかせる子ガメの動きに「ダンス」という名がついたのは、見ていた人の気持ちがそのまま出た命名だと思います。ただ、あの動きが可愛いから研究が進んだわけではなく、反応がはっきり目で見えるから測れたのが要点でした。エサを待つ気持ちが、感覚のしくみを切り分ける物差しになる。生きものを観察するときの手つきとして、私はここを覚えておきたいです。受容器そのものはまだ見つかっていません。次に確かめられるのは、たぶんそこです。

編集責任者Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.07.30
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