生きもの — 2026.08.01 SAT NO.025 / TSUGINOTE SCIENCE

森の地下で、木は助け合っている
3つの主張のうち、査読済みの証拠が見つからなかったのはどれか

土の中に広がる菌糸のネットワークと植物の根を描いたイラスト。細い菌糸が根に取りつき、複数の株のあいだをつないでいる様子

要点:菌根の共生そのものは、疑いようもなく本物です。約4億700万年前の化石にすでに同じ構造が残り(New Phytologist、2025年・査読済み)、いまも陸上植物の約85%が結び、植物が地下の菌糸へ回す炭素は年間13.12 Gt-CO2e相当と見積もられています(Current Biology、2023年・査読済み)。一方、その菌糸が森の木々を結ぶ「助け合いのネットワーク」だという物語については、2023年の査読論説が既存の野外研究を数え直し、3つの主張を別々に評価しました。31本を統合した2025年のメタ解析も、効果は小さく一貫しないと報告しています。ただし「炭素は確かに移動する」という反論もあり、争点は今も動いています。

私が菌根を好きになったきっかけは、森の物語ではありませんでした。顕微鏡写真の一枚です。植物の根の細胞のなかに、菌糸が細かく枝分かれして入り込み、小さな樹木のような形をつくっている。樹枝状体(じゅしじょうたい)と呼ばれる構造です。細胞は菌を排除せず、膜を押し広げて包み、そこで物のやりとりをしています。名前のとおり、根のなかに小さな木が生えているように見えます。

この共生には、気の遠くなるような時間がかかっています。スコットランドのウィンディフィールド・チャートから出た約4億700万年前の植物化石を、蛍光とラマンの画像技術で調べ直した2025年の査読論文は、そこに樹枝状体を伴う菌根がはっきり保存されていたと報告しました。陸上に植物が上がっていく、その最初期からすでに、この関係は成立していたわけです。

まず、菌根そのものの話をさせてください

菌根(マイコライザ)は、菌類と植物の根がつくる共生の仕組みです。植物は光合成でつくった糖や脂質を菌に渡し、菌は自分の菌糸で土のすきまを探って、リンや窒素、水を集めて植物に渡します。根毛が届かない距離まで菌糸は伸びるので、植物からすれば「土に触れる面積を外注している」ようなものです。現生の陸上植物の約85%が、なんらかの菌根を持つと見積もられています。

規模の話をひとつ。2023年のCurrent Biologyの査読論文は、査読付き論文61本と未公表4件から194のデータセットを集め、植物群落が地下の菌糸へ回している炭素量を推定しました。アーバスキュラー菌根菌に年3.93 Gt-CO2e、外生菌根菌に9.07 Gt、ツツジ型菌根菌に0.12 Gt。合わせて年13.12 Gt-CO2e相当が、少なくとも一時的に菌糸へ渡っている計算です。著者らはこれを、現在の化石燃料由来CO2排出量の約36%に相当すると書いています。

ここまでは、私が何の留保もなく愛でていい話です。目に見えない細さの糸が、地球の炭素の流れの一角を担っている。問題はこの先、「菌糸が2本の木をつないでいる」と言った瞬間から始まります。

「ネットワークの効果」は、つないだ状態と切った状態の差として測られる(模式図) A. つながったまま(intact) 同じ菌の菌糸が両方の根に取りつく B. 切断した(severed) 仕切りや回転で連絡を断つ ※ AとBの差が「ネットワークの効果」。ただし切断は根や土もいくらか乱すため、差の原因を菌糸だけに帰せない場合がある。 ※ 実験配置の一例を単純化した図で、実測値ではありません。

「つながっている」と「助け合っている」は、別の主張です

一つの菌の個体(ジェネット)が2本以上の植物の根に同時に取りつけば、その菌糸は理屈のうえで両者をつなぐ通路になります。これを共通菌根ネットワーク(CMN)と呼びます。ここから先、話は三段に積み上がっていきます。積み上がるうちに、確かさは段ごとに薄くなります。

主張言っていること
①つながり森の木々は、共通の菌糸で広くつながっている
②移動その通路を通って資源が移動し、稚樹の育ちが良くなる
③意図大きな成木が、自分の子の稚樹を選んで資源や防御信号を送っている

③は、いわゆる「母樹(マザーツリー)仮説」として広く知られた形です。私も一度は、それはなんて優しい森なんだろうと思いました。ですから、次の報告を読んだときは少しこたえました。

数え直したら、どこで足が止まったか

2023年、Justine Karstさん(アルバータ大学)、Melanie D. Jonesさん、Jason D. Hoeksemaさんの3人が、Nature Ecology & Evolutionに論説(Perspective)を発表しました。やったことは地味です。①②③それぞれについて、根拠とされてきた野外研究を集め、元の論文が実際に何をどこまで示したのかを読み直したのです。

結果はこう報告されています。①は、いまの技術では野外で「途切れのない菌糸のつながり」を確認するのがそもそも難しく、森全体に広くあるとまでは言えない。②は、稚樹の育ちが良くなるという報告と悪くなるという報告がほぼ同数あり、いちばん多いのは「変わらない」で、野外研究の結果はばらつきが大きく別の説明も残るため一般化を支えない。そして③については、査読を経て公表された証拠が見つからなかったと書かれています。

もう一つ、著者らが指摘したのは伝わり方のほうです。CMNの良い効果を示した結果ばかりが引かれる引用バイアスが積み重なり、2022年に出た論文が元の野外研究について述べた記述のうち、正確とみなせるものは半分に届かなかったと報告されています。査読を通った論文のなかでも、引くたびに少しずつ話が強くなっていた、ということです。

2025年、31本を束ねて出た答え

もう少し新しい検算もあります。2025年、Anika Lehmannさん、Bo Tangさん、Matthias C. Rilligさん(ベルリン自由大学)がFunctional Ecologyに発表したメタアナリシスです。アーバスキュラー菌根菌のCMNを、2株以上の植物を使って調べた査読付き論文31本からデータを集め、上の図のような「つないだまま」と「切った」の比較で、植物の生育量・組織中の養分濃度・菌の構造の量を統合しました。

報告された結論は、中立か一貫しない、そして効果は小さい、というものでした。プラスもマイナスも出ていて、植物や菌の種類、ほかの微生物がいるかどうかといった条件次第で向きが変わる。強い文脈依存です。著者らはさらに、データ量そのものが限られていて統計的な検出力が足りないため、一般化にはよほど慎重であるべきだと書いています。論文の最後には、CMNの効果について一般に伝えるときは慎重に、という一文まで添えられています。

ここで一つだけ言い添えておきたいことがあります。効果が小さいことは、生態学的に重要でないことと同じではありません。著者らもそう書いています。小さい効果は見つけにくいだけで、無いとは限らない。「証拠が不十分」と「存在しない」を混ぜないのが、この分野の読み方の作法です。


反対の側からの声もあります

ここで話を閉じてしまうと、片側だけを写したことになります。同じ2023年、Tamir Kleinさん(ワイツマン科学研究所)ら5人がOpen Research Europeにオープン査読の論文を出し、Karstさんらの批判を「過剰解釈と引用バイアスへの有益な警告」と認めたうえで、菌根ネットワークを介した地下の炭素移動そのものについては、事実として証拠が積み上がっていると反論しました。実験室での炭素移動は半世紀以上前の1969年の研究に、野外での報告は1997年の研究にさかのぼる、というのが彼らの立論です。

また同年、Nils Henrikssonさんら(スウェーデン農科大学ほか)がNew Phytologistに発表した論考は、母樹仮説の実証は非常に限られ、その機構を説明する理論もほぼ欠けていると指摘しました。そのうえで彼らが提示した見方が、私にはいちばん腑に落ちました。木から木へ資源が渡っているように見える現象は、木が木へ送ったのではなく、木と菌のあいだの取引の結果としてそう見えているのではないか。菌は仲介者ではなく、自分の都合で動く当事者だという読み方です。

争点を整理すると、こうなります。炭素などの物質がCMNを通って動くことがある——ここは、程度をめぐる議論はあっても否定されていません。争われているのは、それが森でどのくらい普遍的で、稚樹の生死をどれだけ左右し、そして「送り手の意図」に見えるものが本当に送り手の側にあるのか、という部分です。

それでも、足元は見られます

物語の一部が薄くなったことを、私は損失だと思っていません。むしろ、菌のほうが一段大きく見えるようになりました。木の優しさの道具ではなく、自分の生活のために両側と交渉している生きものとして、そこにいる。

観察は、掘らないのがいちばんです。菌糸は乱すと壊れますし、掘り返せば根も土の構造も傷みます。代わりに見られるものが二つあります。ひとつは、きのこです。地上に出ているあの傘は、地下に広がる菌糸体が胞子を飛ばすためにつくった一部分で、本体は見えていない側にあります。夏の終わりから秋、雨の翌日に林の縁を歩くと、樹種によって出てくるきのこの顔ぶれが違うことに気づきます。

もうひとつは、落ち葉の裏側です。積もった葉を一枚めくると、白い糸がびっしりと張って葉と土を縫い合わせていることがあります。あれをそっと戻すところまでを含めて、観察だと思っています。

出典:Karst J., Jones M.D., Hoeksema J.D. "Positive citation bias and overinterpreted results lead to misinformation on common mycorrhizal networks in forests," Nature Ecology & Evolution(2023年・査読済み)doi:10.1038/s41559-023-01986-1/Lehmann A., Tang B., Rillig M.C. "Meta-analysis of effects of common mycorrhizal networks formed by arbuscular mycorrhizal fungi on plant and fungal parameters," Functional Ecology(2025年・査読済み)doi:10.1111/1365-2435.70125/Klein T., Rog I., Livne-Luzon S., van der Heijden M.G.A., Körner C. "Belowground carbon transfer across mycorrhizal networks among trees: Facts, not fantasy," Open Research Europe 3(2023年・オープン査読)doi:10.12688/openreseurope.16594.1/Henriksson N. ほか "Re-examining the evidence for the mother tree hypothesis – resource sharing among trees via ectomycorrhizal networks," New Phytologist(2023年・査読済み)doi:10.1111/nph.18935/Hawkins H.-J. ほか "Mycorrhizal mycelium as a global carbon pool," Current Biology 33(11):R560–R573(2023年・査読済み)doi:10.1016/j.cub.2023.02.027/"An arbuscular mycorrhiza from the 407-million-year-old Windyfield Chert identified through advanced fluorescence and Raman imaging," New Phytologist(2025年・査読済み)doi:10.1111/nph.70655Functional Ecology 平易要約(著者による、2025年7月18日)
EDITOR'S NOTE — メデル:好きな話が薄くなるのを読むのは、正直こたえます。ただ今回、私がいちばん惹かれたのは、Henrikssonさんらの「木が送ったのではなく、木と菌が取引した結果に見えている」という読み替えでした。菌の側に立ち位置を移すと、同じ現象が違う顔をします。愛でる相手を一段広く取り直せた回だったと思っています。数字のうち、13.12 Gt-CO2eのような推定はモデルと前提に依るので、幅のあるものとして受け取ってください。

編集責任者Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.08.01
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