4℃上がって残るスキー場は全国で7か所。これは人工雪を一度も使わず、全面を開けられる数です。
要点:北海道大学の吉沢直講師と森林総合研究所の勝山祐太研究員が、全国349か所のスキー場について将来の営業可能性を予測しました(査読済み・日本雪氷学会誌『雪氷』88巻4号、DOI: 10.5331/seppyo.88.4_295、2026年8月1日オンライン公開/大学発表は8月3日)。4℃上昇条件で「天然雪のみで安定的に全部営業が可能」なのは7か所、「一部営業が可能」は26か所。2℃上昇条件ではそれぞれ53か所と108か所です。7という数字には、母数・自然積雪のみ・全部営業・実験期間という4つの条件が付いています。その4つが原著から発表資料、そして二次発信へ渡るあいだにどう扱われているかを2026年8月16日に読み比べ、349を分母にした割合はこちらで計算し直しました。
まず、この研究が何をしたかを短く書きます。使ったのは気候予測データベース d4PDF の5kmメッシュ版と、雪の層のふるまいを計算する積雪変質モデル SNOWPACK です。この二つを組み合わせて、過去実験・全球平均気温2℃上昇実験・4℃上昇実験の三つの条件で全国349か所のスキー場地点の積雪を計算し、営業できるかどうかを比べています。2℃上昇はおおむね2030〜2091年、4℃上昇は2050〜2111年に相当すると発表資料は書いています。
結果は抄録にこうあります。4℃上昇実験では天然雪のみで安定的に全部営業が可能なスキー場は全国で7箇所、一部営業が可能なスキー場も26箇所に限られ、日本のスキー産業は壊滅的な影響を受けると予測された。新雪の日数も全国的に減り、4℃上昇実験では多くのスキー場で年間10日以下になる一方、一部地域では20日前後を保つ可能性が示されたとされています。
確かめたかったのは、7に何個の条件が付いているか
「7か所」は強い数字です。強い数字ほど、条件を外して運ばれやすい。そこで今回は、この数字に付いている条件を数え、それが伝わる過程でどこまで残るかを確かめることにしました。仮説はひとつだけです。落ちるとしたら、数字ではなく条件のほうだろう、というものです。
やり方はこうです。2026年8月16日に、次の三つを読み比べました。①J-STAGEにある原著の書誌と抄録(DOI: 10.5331/seppyo.88.4_295)、②北海道大学の発表ページ(2026年8月3日付)、③検索で見つかった二次発信2件。三つとも公開されている文章だけを対象にしています。有料の全文PDFは開いていません。
そのうえで、次の4項目が書かれているかどうかを見ました。(1)母数が349か所であること/(2)自然積雪のみを前提とした評価であること/(3)「全部営業」と「一部営業」を分けていること/(4)比較に使った実験期間。この4つが揃って初めて、7という数字は元の意味のまま読めます。
まず、割合に直してみる
ここはこちらの計算です。349を分母に置き直すと、抄録の数字はこう見えます。
| 営業の区分 | 2℃上昇実験 | 4℃上昇実験 |
|---|---|---|
| 全部営業が可能 | 53か所(15.2%) | 7か所(2.0%) |
| 一部営業が可能 | 108か所(30.9%) | 26か所(7.4%) |
| 合計(何らかの営業が可能) | 161か所(46.1%) | 33か所(9.5%) |
| どちらにも入らない | 188か所(53.9%) | 316か所(90.5%) |
割合はこちらで計算したもので、論文がこの形で示しているとは限りません。それでも、こう並べると「7か所」だけを見たときとは印象が変わります。4℃上昇条件で全国の2.0%が全部営業でき、それを含めて9.5%が何らかの形で滑れる、というのが数字の全体です。2℃から4℃へ動くと、全部営業は53から7へ86.8%減り、一部営業は108から26へ75.9%減ります。減り方は全部営業のほうが急です。
もうひとつ、割合を出して気づいたことがあります。2℃上昇条件でも、何らかの営業ができるのは46.1%です。半分を下回っています。4℃という数字の強さに引っ張られると、2℃側がすでに厳しい予測であることを読み落とします。
4項目は、どこまで残っていたか
結果を先に書きます。原著の抄録と大学の発表資料は、4項目すべてを書いていました。落ちていたのは二次発信の側です。
抄録は「日本全国349箇所」「自然積雪条件に基づく」「天然雪のみで安定的に全部営業が可能」「一部営業が可能なスキー場も26箇所」と、必要な限定をすべて置いています。実験期間も「過去実験(1950〜2010年)」と明記されています。大学の発表資料も同じで、見出し自体が「気温4℃上昇で安定営業できるスキー場は全国で7か所に」となっており、7という数字の隣に「安定営業」という限定が付いたまま出ています。
二次発信のうち、本文まで読めた1件(2026年8月12日付の科学ニュースサイト)では、7か所の説明が「存続可能なスキー場は僅か全国で7か所に限られる」という書き方になっていました。本文の別の箇所には「自然積雪だけを利用している現在のスキー場は気候変動に弱い」とあるので、条件(2)は残っています。ただし「全部営業」という限定と、「一部営業26か所」という数字は、この記事には出てきません。存続可能という語に置き換わると、営業の程度を分けていたことが見えなくなります。もう1件は見出しだけを確認でき、大学の見出しをそのまま使っていたため「安定営業できる」は保たれていました。
付け足すと、強い言葉を使っているのは広報の側ではありませんでした。「壊滅的な影響」と書いているのは論文の抄録のほうで、大学の発表資料にこの語はありません。広報が煽り、論文が慎重、という順番を私は無意識に想定していたので、ここは想定と逆でした。
効かなかったこと、分からなかったこと
まず、この確認は二次発信を2件しか読めていません。2件で傾向を語ることはできないので、上に書いたのは「1件でこうなっていた」という事実にとどまります。条件が落ちやすいという一般的な結論には届いていません。ここは設計が甘かったところで、検索で当たる範囲を広げても、同じ発表を扱った記事はそれほど多く見つかりませんでした。
次に、7か所がどこなのかは、公開されている範囲からは特定できませんでした。抄録と発表資料はどちらも「北海道や長野県の高標高地域に相対的な存続優位性が確認された」という地域の傾向までを書いており、地点名は出していません。発表ページには全国分布図が載っていますが、図から個別のスキー場を読み取ることはしていません。
もうひとつ、細かい食い違いがあります。過去実験の期間が、抄録では「1950〜2010年」、大学の発表資料では「1951-2011年」と書かれています。1年ずれています。冬のシーズンを年をまたいで数えるとき、始まりの年で呼ぶか終わりの年で呼ぶかで表記が1年動くことはあるので、これが誤りだと決めることはできません。理由は公開文書からは分かりませんでした。
最後に、この研究の範囲そのものが持つ限界です。評価はあくまで自然積雪の条件で行われています。人工降雪機を動かした場合にどうなるかは、この論文が答える問いではありません。逆に言えば、7か所という数字は「人工雪に頼らずに済むスキー場がいくつ残るか」を測ったもので、日本のスキー場が7か所になるという意味ではありません。
この論文は2025年12月25日に受け付けられ、2026年5月27日に受理されています。査読を経た論文です。だからこそ、そこに書かれた条件は、数字と同じ重さで扱われるべきものだと思います。
持ち帰りを一つだけ挙げます。強い数字を見たら、その数字が答えている問いの文を探すことです。今回なら「天然雪のみで安定的に全部営業が可能なスキー場は何か所か」という一文がそれにあたります。問いの文が見つからないまま数字だけが書かれている記事は、元の条件が落ちている可能性があります。原著の抄録はフリーで読めるので、確かめるのに数分しかかかりません。
編集責任者:Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.08.16
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