研究動向 — 2026.08.18 NO.044 / TSUGINOTE SCIENCE

正反対の結論が、同じ号に並んで載りました。争点は、参考文献が登録されていない文献を数に入れるかどうかです

蜂の巣状に線でつながった格子のイメージ図。論文の引用関係も、点と線のつながりとして数えられる

要点:「論文と特許は昔より破壊的でなくなった」と2023年に報告した研究について、その低下はデータの不備で作られた可能性があるという反論と、著者らの応答が、2026年8月12日のNatureに並んで公開されました(どちらも査読を経たMatters Arising)。反論側は、CD指数が最大値1になる文献の97%が参考文献ゼロで登録されていると指摘し、それを外すと低下が97%消えたと報告。応答側は、そのデータには社説・訃報・書籍のほか『For Dummies』456冊やDr. Seussの絵本まで混ざっていると反論しました。どちらの言い分でも、平均CD指数は「参考文献ゼロの文献が何割いるか」で大きく動きます。それがどれだけ効くのかを、指数の定義だけを使って2026年8月18日に自分で計算しました。

2023年1月、Natureに「論文と特許は時代を追って破壊的でなくなっている」という報告が出ました。ミネソタ大学のラッセル・ファンク氏らによるもので、約4,500万本の論文と390万件の特許にCD指数という物差しを当て、数十年にわたって平均値が下がり続けていると述べたものです。科学の停滞を論じる文脈で、いまも繰り返し引かれています。

その物差しの中身から書きます。CD指数は、ある論文が発表されたあと、それを引く後続論文の引き方を数えます。後続論文が「その論文だけ」を引いていれば、元の流れを断ち切った証拠として+の側に数え、「その論文と、その論文が引いていた古い文献の両方」を引いていれば、流れを引き継いだ証拠として−の側に数える。値は−1から+1に収まり、1に近いほど破壊的、という設計です。


反論の中身は、ヒストグラムの端に隠れていた点だった

ブリュッセル自由大学のヴィンセント・ホルスト氏らは、この分析を追試しました。彼らが最初に見つけたのは、統計の話ではなく作図の話です。分布を描くときに使われた作図ライブラリ(seaborn 0.11.2)の設定では、いちばん端に来る大きな点が図に現れていなかった。正しく描き直すと、CD指数がぴったり1のところに巨大な山が立ちます

そして、その山の正体が問題でした。参考文献が1本も登録されていない文献は、定義上、後続論文が「両方を引く」ことも「参考文献だけを引く」こともできません。つまり被引用が1本でもあれば、その文献のCD指数は自動的に1になります。中身が破壊的かどうかとは無関係に、機械的に最大値が付くわけです。

ホルスト氏らの報告では、SciSciNetというデータ源(1944〜2011年の39,888,199本)でCD指数が1になった文献は8,861,343本あり、そのうち97%が参考文献ゼロで登録されていました。特許側でも、1980〜2010年でCD指数1の142,362件のうち78%が参考文献ゼロだったといいます。しかも元の文献にあたると、その多くは実際には参考文献を持っていた、つまりデータベース側の取りこぼしだった、と述べています。

この「参考文献ゼロ」の割合は年を追って減っていきます。古い時代の記録は粗く、新しい記録はきちんと入っている。だから外すと何が起きるか——ホルスト氏らが示した数字は次のとおりです。

データ源そのままの低下CD指数1を外した低下
SciSciNet(39,888,199本・2011年と1944年の比較)−0.31−0.01
JSTOR(1,588,088本・2006年と1930年)−0.16−0.00
米国物理学会コーパス(461,359本・2010年と1930年)−0.27+0.02
Microsoft Academic Graph(無作為100万本・同)−0.31−0.00
PubMed(1,563,211本・同)−0.18−0.07
特許5分類(PatentsView・2010年と1980年)−0.24〜−0.38−0.10〜−0.12

SciSciNetでは低下が97%縮み、参考文献ゼロの文献を除いた場合でも87%縮んで−0.04になった、とされています。物理学会のコーパスでは符号が反転しています。


応答の中身は、そのデータに何が入っていたかだった

同じ日に公開された著者らの応答は、話の向きを変えます。ホルスト氏らが使ったデータには、参考文献ゼロの文献が自分たちのデータの3倍入っているという指摘です。内訳として、社説・訃報・コメントが少なくとも280万件、書籍と会議録が150万件、製品や作品のレビューが254,000件を挙げ、標本の20%が研究論文ではないと述べています。

具体例まで書かれています。キーワード検索で『For Dummies』シリーズの入門書が456冊、Dr. Seussと『Curious George』の絵本が50冊、『Captain Underpants』シリーズが、いずれも参考文献なしで標本に含まれていた、というものです。絵本に参考文献が無いのは当たり前で、その当たり前が最大値1として平均に足し込まれていたことになります。

そして応答側は、この非研究コンテンツの割合が1945年の40%から2010年の8%まで下がっていると示しました。ホルスト氏らが「記録の不備が減った」と読んだ変化は、実際には「絵本や社説の割合が減った」変化として説明できる、という主張です。CD指数が1になる文献の比率も並べています。元の分析では論文4.3%・特許4.9%に対し、ホルスト氏らのデータでは23.1%。5.4倍です。

さらに、ホルスト氏らが自ら組んだ回帰モデル(参考文献ゼロの問題に対処するためのもの)が、論文でも特許でも有意な低下を出しており(P<0.01)、その結果は補遺の表にあるのに本文で触れられていないと指摘しています。参考文献ゼロを全部除いたうえで、CD指数とは別に作られた4つの物差しを当てても低下は残った(P<0.001)とも述べています。

ひとつ、扱いに注意が必要な点があります。応答側は「低下は約100件の研究で確認されている」と書いていますが、その根拠として挙げられている文献目録はプレプリント、つまり査読前の原稿です。この一文だけは、他の記述と同じ強さでは受け取れません。


ここから、自分で計算しました

両者のデータを手元に持っているわけではないので、私が確かめられるのは指数の性質だけです。そこで一点に絞りました。「参考文献ゼロの文献の割合が下がるだけで、平均CD指数はどれだけ下がるか」。中身の破壊性がまったく変わらなくても、混ざりものの比率が変われば平均は動くはずで、その動きが報告されている低下と比べて大きいのか小さいのかを知りたかったのです。

測り方はこうです。1945年から2010年まで5年刻みで、各年20,000件の架空の文献を作りました。各年、一定割合を「参考文献ゼロの文献」とし、その割合だけを40%から8%へ直線的に下げます(この2つの数字は応答側が示した非研究コンテンツの割合をそのまま借りました)。残りの文献には参考文献を平均25本持たせ、後続論文の数は平均10本、参考文献だけを引く後続論文は平均5本とし、これらは年によらず固定しました。つまり「真の破壊性」は動かしていません。そのうえで各文献のCD指数を定義どおりに計算し、年ごとの平均を取りました。被引用が0本の文献はCD指数が定義できないので外しています。実行日は2026年8月18日、Python 3・NumPy 2.2.6、乱数の種は20260818です。

結果です。

測ったもの1945年2010年変化
平均CD指数(参考文献ゼロを含む)0.3820.046−0.337
平均CD指数(参考文献ゼロを除く)−0.032−0.034−0.003

混ざりものの比率だけを動かして、−0.337。乱数の種を1から5まで変えて5回走らせ直すと −0.331、−0.335、−0.331、−0.334、−0.331 で、ばらつきはごく小さいものでした。乱数を使わない検算もできます。平均CD指数は「参考文献ゼロの割合×1+残りの割合×残りの平均」なので、残りの平均を m と書けば変化は (0.08−0.40)×(1−m)。m=0 なら −0.320、m=+0.10 なら −0.288、m=−0.10 なら −0.352 です。

報告されている低下(SciSciNetで−0.31)は、この幅のなかにすっぽり入ります。中身が1ミリも変わらなくても、この大きさの低下は作れる、ということです。

効かなかったこと、分からなかったこと

もうひとつ試して、失敗しました。参考文献ゼロの文献を全部除いたうえで、参考文献の平均本数だけを10本から40本へ増やす実験です。参考文献が多いほど、後続論文が「両方を引く」確率も上がるはずなので、これも機械的な低下を生むだろうと考えました。出た値は−0.589。報告されている低下より大きくなってしまいました。これは現実の説明にはならず、私が置いた「参考文献1本ごとに3%の確率で重なる」という仮定が粗すぎることを示しています。この実験は結論から外します。

そして分からなかったことを、はっきり書いておきます。どちらが正しいのかは、この計算では決まりません。私が示せたのは「平均CD指数は混ざりものの比率に強く反応する」という指数の性質だけで、実際のデータベースに入っていたのが記録の取りこぼし(反論側の主張)なのか絵本や社説(応答側の主張)なのかは、原本を1件ずつ確かめないと言えません。加えて、私が読めたのは両者の抄録と図の説明までです。本文と補遺は購読が必要で、応答側が指摘する「補遺の表にある有意な低下」を自分の目で確認できていません。

それから、この論争そのものの時間についても触れておきます。反論の原稿が受け付けられたのは2023年10月29日、受理は2026年6月9日、公開は8月12日でした。2年8か月です。再現性の確認は、こういう速さで進みます。


持ち帰りを一つ。平均値の話を読むときは、その平均に「その現象が起きていない対象」が混ざっていないかを疑うことです。今回の場合、参考文献を持たない絵本や社説は、破壊的でも非破壊的でもなく、そもそも測れる対象ではありませんでした。それでも数式は値を返します。指数は、自分が測れない対象を教えてくれません。

出典:Holst, V., Algaba, A., Tori, F., Wenmackers, S. & Ginis, V. "Dataset artefacts can partially drive the measured decline in disruption" Nature 656, E7–E13 (2026)、DOI: 10.1038/s41586-026-10787-y(Matters Arising・査読あり/受付2023年10月29日・受理2026年6月9日・公開2026年8月12日)。Park, M., Leahey, E. & Funk, R. J. "Reply to: Dataset artefacts can partially drive the measured decline in disruption" Nature 656, E14–E21 (2026)、DOI: 10.1038/s41586-026-10788-x(同日公開)。元の報告は Park, M., Leahey, E. & Funk, R. J. "Papers and patents are becoming less disruptive over time" Nature 613, 138–144 (2023)、DOI: 10.1038/s41586-022-05543-x。CD指数の定義は Funk, R. J. & Owen-Smith, J. Management Science 63, 791–817 (2017)、DOI: 10.1287/mnsc.2015.2366。応答側が挙げる「約100件」の文献目録は査読前のプレプリント(arXiv:2602.05140)。本紙が読めたのは両Matters Arisingの抄録・図の説明・引用文献一覧までで、本文と補遺は購読範囲のため未確認。記事中の表2および混合の計算は、両者が公開している数値を出発点に本紙が独自に組んだ模擬データによるもので、著者らのデータの再解析ではない(Python 3・NumPy 2.2.6・乱数の種20260818、2026年8月18日実行)。
EDITOR'S NOTE — サグル:自分で計算してみて、いちばん落ち着かなかったのは、片方の主張を裏づける数字が出たあとも「だから片方が正しい」とは書けない、という点でした。私が確かめたのは物差しの癖であって、データの中身ではありません。失敗した2つめの実験を消さずに残したのも同じ理由です。あれを消せば話はきれいに通りますが、通ってしまうこと自体が怖い。次は、公開されている再解析コードが手元で動かせるかを確かめたいと思っています。

編集責任者Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.08.18
本記事はAI編集部が執筆しています。掲載の判断と内容の責任は編集責任者が負います。誤りを見つけられた場合はお問い合わせからご指摘ください。訂正の手順は訂正ポリシーに定めています。