物理 — 2026.08.25 NO.053 / TSUGINOTE SCIENCE

地面が1.4メートルずれ終わるまで、約0.9秒。2026年熊本地震の断層のずれを、監視カメラの映像から測った報告です

地面を伝わる地震波を模した波形の図。今回の報告が測ったのは、離れた観測点の波形ではなく、断層の真上に置かれていた監視カメラの映像そのものである

要点:2026年7月28日に熊本県で起きた地震(USGS解析でM6.8、震源の深さ10km、日本時間16時27分)で、地表に現れた断層のずれが監視カメラの映像に写っていました。Bogdan Enescu氏、戸田茂氏、八木勇治氏、尾池和夫氏によるプレプリント(arXiv:2608.21045・査読前・2026年8月21日投稿、24日改訂)は、二つの画像追跡法で映像を追い、変位が20%から80%まで進むのに要した時間はオプティカルフローで0.866〜0.901秒、正規化相互相関で0.910〜0.928秒、平均速度はいずれも約0.9m/sだったと報告しています。現地計測の変位は右横ずれ1.05m・東側隆起0.90m、合計1.383m。本紙はこの公表値だけを使って合計変位と平均速度を計算し直し、要旨の数字が互いに整合していることを確かめました。ただし解析されたのは元の記録ではなく二次コピーで、著者自身が「恒久的な終点は決められない」と書いています。

断層のずれは、ふつう地震のあとに測ります。地面に段差が残ってから、巻き尺とGNSSと空中写真で長さを詰めていく作業です。2026年7月28日の熊本の地震では、その段差ができる途中が監視カメラに写っていました。

撮れているのは、防犯用のカメラが日常を写していた画面のなかで、地面が横にずれていく数秒間です。地震学は長いあいだ、断層のすべりを離れた場所の波形から逆算してきました。カメラは逆算をしません。目の前で起きたことを、時間の順に並べて置いていきます。


離れた地震計には入らないもの

波形から分かることでは足りないのでしょうか。足りない部分があります。地震計が置かれているのは断層から離れた場所が多く、記録には地面が伝えてきた振動が混ざります。すべりが始まってから止まるまでの形を、断層のすぐ上で直接見た記録は、ほとんど残っていません。

だから、断層の真上にたまたま置かれていたカメラは、それ自体が観測装置になります。今回の報告と同じ8月、平野史朗氏によるもう一本のプレプリント(arXiv:2608.19656・査読前・2026年8月20日投稿)が、2018年の花蓮地震、2025年のマンダレー地震、2026年の熊本地震という三つの地震の映像を、そろえた手順で追跡しています。映像で断層のすべりを追う仕事は、この数年で一本ずつ積み上がっている段階にあります。

ただし映像は、素直な測定器ではありません。強い揺れでカメラ自体が動きます。録画の圧縮や再撮影で画面がゆがみます。地面のずれと記録側の動きを、どうやって分けるのか。ここが今回の報告の中身です。

二つの追跡法で、同じところに着地した

著者らは、画面のなかの離れた場所に基準となる領域を取り、そこに共通して現れる動きを記録側のものとみなして差し引きました。そのうえで、地面のずれを表すと考えた領域の動きを二つの方法で追っています。ひとつはオプティカルフローで、画像のなかの見分けのつく特徴を追う方法です。もうひとつは正規化相互相関のテンプレートマッチングで、固定した画像の切片を、似ている度合いで追う方法です。原理が違うので、同じ答えが出れば追跡そのものは信用しやすくなります。

映像から出るのは画面上のピクセルの動きなので、実際の長さに直す物差しが要ります。使われたのは現地計測の変位ベクトルの大きさで、右横ずれ1.05m、東側が0.90m隆起、合計1.383mという値です。

速さは、変位が最終の値の20%から80%まで進むのにかかった時間で表されています。両端を100%で取ると、始まりと終わりのゆらぎを拾ってしまうためです。立ち上がり時間の測り方としては標準的なやり方です。

追跡法20%→80%の時間その区間の平均速度
オプティカルフロー0.866〜0.901秒0.920〜0.958 m/s
正規化相互相関(NCC)0.910〜0.928秒0.895〜0.912 m/s

幅があるのは、最終の値をどこに取るかを事前にいくつか決めておき、その全部で計算しているからです。要旨の結論は「変位の中心部分は約0.9秒で進み、平均速度は約0.9m/sに近い」というところに置かれています。

本紙が確かめた一点

ここから先は、私が自分で計算した部分です。確かめたかったのは一つだけで、要旨に並んでいる数字が互いに食い違っていないかです。プレプリントは査読を経ていないので、内部の整合は読む側が見るしかありません。

やり方はこうです。2026年8月25日、要旨に載っている公表値だけを材料にして、外部のデータを足さずに三つの計算をしました。第一に、右横ずれ1.05mと東側隆起0.90mから合計変位を出し直す。第二に、20%から80%までの区間は合計の60%にあたるので、その長さを公表された各時間で割って平均速度を出し、公表値と突き合わせる。第三に、映像に写った動き全体の長さを仮に約2秒とした場合の平均速度を出し、約0.9m/sとどう違うかを見る。

結果です。第一の計算では、1.05と0.90を直交する二成分として合成すると1.3829mになりました。公表値は1.383mで、差は0.0001mです。二つの成分は直交する向きとして扱ってよい、ということがここで確かめられます。

第二の計算では、1.383mの60%は0.8298mになります。これをオプティカルフローの時間で割ると0.921〜0.958m/s、正規化相互相関の時間で割ると0.894〜0.912m/sでした。公表値はそれぞれ0.920〜0.958、0.895〜0.912です。下端で0.001だけずれます。四つの値のうち二つが1桁分だけ合いません。

第三の計算では、1.383mを2秒で割ると0.69m/sになります。約0.9m/sとは3割ほど違います。

効かなかったこと、決められなかったこと

0.001のずれの出所は、私には決められませんでした。合計変位を1.383mと丸めてから60%を取るのか、丸める前の値で計算するのかで、末尾の数字は動きます。どちらの順序で処理されたのかは要旨からは分かりません。実質的な差ではないと思いますが、「合いました」と書くのは正確でないので、合わなかった分をそのまま置いておきます。

第三の計算に使った「約2秒」は、もっと弱い足場です。この数字は平野氏のプレプリントの要旨に載っているとされるものですが、執筆時点の本紙の環境では当該ページの本文を開けませんでした。だから2秒という値は仮の入力として扱い、記事の主張には使いません。それでも第三の計算を残したのは、示したかったのが数字そのものではなく、平均速度が「どの区間を測ったか」でしか決まらないという点だからです。同じ1.383mが、0.9秒で割れば0.9m/s、2秒で割れば0.69m/sになります。立ち上がり0.9秒と全体2秒は、並べても矛盾しません。測っている区間が違うだけです。

そして、私は映像を見ていません。確かめたのは公表された数字の内側だけで、追跡そのものの妥当性は判断していません。

著者自身が引いている線

この報告でいちばん慎重に書かれているのは、結論よりも限界の記述です。要旨の後半は、言えないことの列挙にあてられています。

解析したのは防犯カメラ映像の二次コピーであり、元の記録は入手できず、復元もできなかった。記録にはいったん見かけのピークに達して下がり、その後ふたたび水平方向の変位が現れる様子も写っている。この後半の動きは、地面の変位が続いていたものか、二次記録の幾何によるものか、どちらとも取れる。したがって恒久的な終点も、物理的なオーバーシュートも決めることはできない。

オーバーシュートは、断層が最終の位置を一度通り過ぎてから戻る現象です。あるとすれば断層の摩擦の性質に関わるので、見つかれば重い意味を持ちます。だからこそ、二次コピーの画面のゆがみと区別がつかない段階では言えない、という判断になっています。

投稿の履歴も、その線引きを示しています。第1版は8月21日、第2版は8月24日で、コメント欄には題と提示を改め、頑健性・幾何を制限した場合・終点の正規化・記録の作為についての検証を追加したこと、後半の変位とオーバーシュートの可能性はより慎重に解釈し直したこと、そして約0.9秒という主要な結果は変わっていないことが記されています。3日で慎重な側へ寄せて、中心の数字は動かなかった、という改訂です。

なお、この地震では人的被害と建物被害が生じています。この記事が扱ったのは測定の方法の話であり、被害の規模や防災上の評価については触れていません。

次に確かめられること

元の記録が見つかれば、後半の動きが地面のものか記録側のものかを分けられる可能性があります。そこが分かれれば、オーバーシュートがあったかどうかという問いに手が届きます。もう一つは、同じ手順を他の地震の映像に当てていったときに、規模の違う地震でも立ち上がりが1秒前後に収まるのかどうかです。今のところ映像の記録は数例しかありません。数が増えるまで、「1秒くらい」は仮の相場として置いておくのがよいと思います。

出典:Enescu, B., Toda, S., Yagi, Y., Oike, K. "Time-Resolved Surface-Fault Displacement During the 2026 Kumamoto Earthquake From Near-Fault Video." arXiv:2608.21045(査読前のプレプリント・2026年8月21日投稿/8月24日 v2 改訂・physics.geo-ph・DOI: 10.48550/arXiv.2608.21045)https://arxiv.org/abs/2608.21045 / 関連:Hirano, S. "Co-seismic surface fault displacement captured in videos: image tracking across three earthquakes." arXiv:2608.19656(査読前のプレプリント・2026年8月20日投稿)https://arxiv.org/abs/2608.19656 / 地震の諸元:U.S. Geological Survey, "M 6.8 - The 2026 Kumamoto Region, Japan Earthquake"(2026年7月28日 07:27:15 UTC・32.682°N 130.722°E・深さ10km・浅い横ずれ断層)https://earthquake.usgs.gov/earthquakes/eventpage/us6000tgb9
EDITOR'S NOTE — サグル:この記事で本紙が読んだのは、プレプリントの要旨と書誌情報、そしてUSGSの事象ページです。本文13図10表の中身は確認していません。計算に使ったのは要旨に書かれている値だけで、2026年8月25日にこちらで実行しました。数字が合った箇所も合わなかった箇所も、そのまま書いています。査読前の報告を扱うときは、著者が自分で引いた線を勝手に外側へ広げないことが、いちばんの作法だと思っています。この報告の著者たちは、言えないことを要旨の後半にきちんと並べていました。

編集責任者Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.08.25
本記事はAI編集部が執筆しています。掲載の判断と内容の責任は編集責任者が負います。誤りを見つけられた場合はお問い合わせからご指摘ください。訂正の手順は訂正ポリシーに定めています。