研究動向 — 2026.09.22 NO.062 / TSUGINOTE SCIENCE

宇宙を膨張させている正体について、物理学者1,675人に聞いたところ、答えはほぼ真っ二つに割れました。優勢な側がどちらかは、計算してみないと分かりません。

細い光の線でいくつもの点が結ばれた量子もつれのイメージ図。宇宙を膨張させる力の正体も、小さな手がかりを結び直すところから探られている

要点:宇宙の加速膨張を起こしているダークエネルギーの正体について、アメリカ物理学会(APS)発行のPhysics Magazineが物理学者1,675人に尋ねた大規模調査「Big Mysteries Survey」で、「一定の宇宙定数」と答えた人が24.0%、「時間とともに変化する場」と答えた人が25.9%と、ほぼ二分される結果が報告されました(プレプリント・arXiv:2605.11058、査読前。2026年9月にAPSが特集記事として紹介)。2024年の別の調査では宇宙定数が38%で優勢だったため「立場が逆転した」とも読めますが、本紙が多項分布の誤差を使って計算し直すと、今回の1.9ポイント差は統計的に有意とは言えませんでした。一方で、2024年から宇宙定数支持率そのものが下がったことは、誤差を考えても偶然とは言いにくい大きさでした。

1,675人の物理学者に同じ質問をしたら、答えがほぼ半々に割れました。問われたのは、宇宙の膨張を加速させている正体、ダークエネルギーの性質です。密度も強さも時間や場所によらず一定の「宇宙定数」なのか、それとも時間とともに姿を変える場なのか。専門家の間でも決着していません。

この調査を主導したのは、ウォータールー大学とペリメーター理論物理学研究所のニアイェシュ・アフショルディ氏らのグループです。同グループはアメリカ物理学会(APS)発行のPhysics Magazineと共同で、2025年7月28日から9月9日にかけて、APS会員と同誌の読者を対象にオンライン調査を実施しました。回答者は1,675人。宇宙論・ブラックホール・量子力学の解釈・量子重力という、物理学のなかでもとりわけ決着していない4分野10問について尋ねたものです。


「宇宙の加速膨張」を聞いた設問だけ、答えが割れていた

10の設問のうち、宇宙の加速膨張の原因を尋ねた設問4の結果が、今回いちばん目を引きます。教科書的な答えである「宇宙定数」を選んだ人は24.0%(400人)。ところが「時間とともに変化する場」を選んだ人が25.9%(431人)と、わずかに上回りました。残りは量子重力の効果12.9%、その他の重力修正13.0%、その他9.3%、意見なし15.0%です。

回答人数割合
時間とともに変化する場431人25.9%
一定の宇宙定数400人24.0%
重力理論のその他の修正216人13.0%
量子重力の効果214人12.9%
その他155人9.3%
意見なし249人15.0%

教科書のいちばん単純な想定である宇宙定数が、過半数はおろか最多回答ですらなかったことになります。研究チームは、この結果の背景にダークエネルギー観測プロジェクトDESI(暗黒エネルギー分光装置)による解析(Lodha et al., 2025, Phys. Rev. D 112, 083511)が広く議論されてきたことがあるのではないか、と論文中で述べています。DESIのデータは、ダークエネルギーの強さが時間とともにわずかに弱まっている可能性を示唆する結果として、2025年に大きく報じられました。


2024年の調査では、宇宙定数が優勢だった

では、去年までとは意見が逆転したと言えるのでしょうか。比較材料はあります。同じアフショルディ氏らのグループは2024年夏、コペンハーゲンで開かれた学会「Black Hole Inside Out Conference」でも同種の調査をしており、そちらでは宇宙定数が38%で最多、時間変化する場は16%にとどまっていました(Chen, Halper & Afshordi, arXiv:2503.15776, 2025)。数字だけ並べれば、1年余りで支持がひっくり返ったように見えます。

調査時期・母数宇宙定数時間変化する場
コペンハーゲン学会調査2024年夏・85人38%16%
Big Mysteries Survey2025年7〜9月・1,675人24.0%25.9%

ただし、この2つの調査は同じ人たちに同じ質問を繰り返したものではありません。片方はブラックホール物理を専門とする研究者が集まる学会での挙手に近い調査、もう片方はAPS会員という広い母集団からの任意参加のオンライン調査です。人数も85人と1,675人でまったく違います。単純に「1年で意見が変わった」と読むには、この違いを無視できません。


ここから、自分で計算しました

確かめたかったのは一点だけです。「時間変化する場」が「宇宙定数」をわずかに上回ったという1.9ポイントの差は、統計的に見て意味のある差なのか。アンケートで一位と僅差の二位が並んでいたら、それは本当に順位なのでしょうか。数えてみるまでは、分かりません。

やり方はこうです。1,675人が6択のどれか1つを選ぶ多項分布として扱い、2つの回答の割合の差の標準誤差を、独立した2標本としてではなく同じ調査から出た数字として計算します。割合をp₁(宇宙定数)・p₂(時間変化)とすると、差の分散は Var(p₁)+Var(p₂)-2Cov(p₁,p₂) で、多項分布では Cov(p₁,p₂)=-p₁p₂/N になります。実行日は2026年9月22日、Python 3・標準ライブラリのmathのみで計算しました。

比較差標準誤差差/標準誤差
時間変化(25.9%)-宇宙定数(24.0%)〈同一調査内〉1.9ポイント1.7ポイント約1.1
宇宙定数:コペンハーゲン(38%)→Big Mysteries(24.0%)14.0ポイント5.4ポイント約2.6

結果です。同じ調査のなかでの「時間変化する場」対「宇宙定数」の1.9ポイント差は、標準誤差1.7ポイントに対して1.1倍程度でした。物理学でよく使われる「意味のある差」の目安(2〜3倍以上)にはまったく届きません。今回の調査だけを見る限り、2つの説はほぼ並んでいる、というのが正確な言い方です。一方、宇宙定数そのものの支持率がコペンハーゲンの38%からBig Mysteries Surveyの24.0%まで下がった14.0ポイントの差は、標準誤差5.4ポイントに対して2.6倍あります。こちらは、誤差だけでは説明しづらい大きさです。

効かなかったこと、分からなかったこと

この2つ目の計算にも、はっきり限界があります。母集団が違う2つの調査を、まるで同じ人たちの追跡調査であるかのように差し引きしてよいのか、という問題です。コペンハーゲンの85人は重力・ブラックホール物理の専門家に絞られた集団で、Big Mysteries Surveyの1,675人はAPS会員全体という、専門も年代もはるかに幅広い集団です。宇宙定数への支持が下がった理由が、DESIの新しい結果を知って考えを変えた人が増えたからなのか、それとも単に専門外の回答者が増えて票が分散しただけなのか、この計算だけでは切り分けられません。

それから、両調査とも任意参加のオンライン調査であり、無作為抽出ではありません。回答した1,675人が物理学者全体を代表しているとは限らず、「意見なし」を選んだ15.0%の内側に、実はどちらか一方へ強く傾いている人が隠れている可能性も、この数字だけでは分かりません。


持ち帰りを一つ。アンケートで一位と僅差の二位が並んでいるのを見たら、その差を、それぞれの誤差を自分で足し合わせてから見ることです。24.0%と25.9%は、見出しにすれば「逆転」と書けてしまいます。ですが計算し直せば、それは今のところ「並んでいる」としか言えない差でした。次に確かめられるとしたら、同じ質問をもう一度、できれば同じ人たちに聞き直したときの数字です。

出典:Afshordi, N., Halper, P., Rini, M. & Schirber, M. "Big Mysteries Survey: Physicists' Views on Cosmology, Black Holes, Quantum Mechanics, and Quantum Gravity" arXiv:2605.11058 [physics.soc-ph](2026年5月11日投稿、査読前のプレプリント)。特集記事:"Far from Settled: Respondents at Odds over Greatest Physics Mysteries" Physics 19, 34(APS、2026年9月)。広報:University of Waterloo, "Largest-ever survey of physicists puts Standard Model of cosmology under scrutiny"(2026年9月)。コペンハーゲン学会調査:Chen, A. Y., Halper, P. & Afshordi, N. arXiv:2503.15776 [gr-qc](2025年)。ダークエネルギーの時間変化を示唆する解析:Lodha, K. et al. "DESI DR2 Results II: Measurements of Baryon Acoustic Oscillations and Growth Rate of Structure" Phys. Rev. D 112, 083511(2025年)。本紙が算出した標準誤差と有意性の計算は、論文が公表した回答数(設問4:宇宙定数400人・時間変化431人・回答総数1,675人)と、コペンハーゲン調査の報告値(38%・16%・回答数85人)を出発点に、多項分布・二項分布の標準誤差公式で本紙が独自に行ったもので、著者らによる検定ではない(Python 3、2026年9月22日実行)。
EDITOR'S NOTE — サグル:計算する前は、正直「逆転した」と書けそうな気がしていました。数字を並べただけならそう見えたからです。実際に誤差を足し合わせてみて、1.1倍という数字が出てきたときは少し拍子抜けしました。それでも、コペンハーゲンからの14.0ポイントの下落のほうは誤差では説明しきれず、両方をひとつの記事に残すことにしました。次に確かめたいのは、同じ1,675人にもう一度、DESIの次の解析が出たあとで同じ質問をしたら数字がどう動くかです。

編集責任者:Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.09.22
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