用語辞典 — ツギノテ。SCIENCEGLOSSARY

アブシシン酸(ABA)

アブシシン酸(abscisic acid、ABA)とは、植物が乾燥などのストレスを感じたときに体内で合成する植物ホルモンの一種。葉の表面にある気孔を閉じさせ、水分が蒸散して失われるのを抑えます。同時に、種子の休眠の維持や生長の抑制にも関わることが知られています。

植物にとっては「節約モードに切り替えろ」という全身への合図に近いはたらきです。水が足りないときに葉から水を逃がさない、発芽を急がない、伸びるのを控える。個体が生き延びるという観点では、この束ねられ方は理にかなっています。

農業に使おうとすると、束ねられていることが困る

気孔を閉じさせる作用だけを取り出せれば、乾燥に強い作物をつくる薬剤になります。実際にABAやその類縁化合物を農業利用する研究は長く行われてきました。ところがABAは気孔だけでなく植物の全身で応答を起こすため、発芽の遅れや根の伸長の抑制といった、栽培では歓迎されない効果まで一緒に誘導されてしまいます。効かないのではなく、効く範囲が広すぎることが課題でした。

「上流」を足すか、「下流」を止めるか

ABAは気孔を閉じさせる指令の側、いわば上流にあたります。これに対して、気孔を開ける側のしくみ(孔辺細胞にK+を流し込むカリウムチャネルなど)を直接止める、という下流を狙う設計も考えられます。標的が狭いぶん全身の応答を巻き込みにくい、という考え方です。

関連記事:乾燥に強くする薬は、すでにありました。広まらなかった理由は、効かないことではありません。