超冷中性子。
超冷中性子(ultracold neutron, UCN)とは、極端に速度を落とした中性子のこと。十分に遅くなった中性子は容器の壁で跳ね返るようになるため、閉じ込めて長い時間観察できます。飛び去ってしまう前に測る必要がないので、中性子の寿命や、未知の相互作用を探す精密実験の主役になります。
中性子は原子核から取り出すと自由な粒子になりますが、放っておけば崩壊します。しかも電気を帯びていないため、電場で捕まえたり曲げたりすることができません。速度を落として「跳ね返る」性質を引き出すことが、中性子を手元に留めておくほぼ唯一の手立てになります。
作るのに大きな装置が要る
超冷中性子は、大強度の陽子加速器などで大量の中性子を作り、それを減速材で徹底的に冷やして得られます。したがって数を稼げる施設は世界的にも限られます。スイスのポール・シェラー研究所(PSI)の超冷中性子源は、生成量で世界最高水準とされる施設のひとつです。
何を測るために使われるのか
代表的な用途は、容器に閉じ込めて一定時間後に生き残った数を数える方式の寿命測定(貯蔵法)です。この値が飛行中の崩壊生成物を数えるビーム法の値と食い違っている問題が中性子寿命問題です。ほかに中性子の電気双極子モーメント探索や、ミラー物質への振動探索のような、標準理論の外側を狙う実験にも用いられます。