地球科学 — 2026.08.05 NO.029 / TSUGINOTE SCIENCE

年代を測る材料が入っていない火山を、どう測ったか。西アイフェルに現れた3回のパルス

火山の噴出ガスを現地で観測する装置を描いたイメージ図

要点:ドイツ西アイフェルには、爆発でできた円い火口湖マールが100個以上あります。ところが「いつ噴いたか」はほとんど決まっていませんでした。年代測定に使いたい鉱物ジルコンが、この地域のマグマには含まれないからです。ハイデルベルク大学・カーティン大学・ゲッティンゲン大学のチームは、マグマが地殻から運び上げた捕獲岩のジルコンに (U-Th)/He 法を当て、主要なマールについて初めて一貫した年代モデルを組んだと報告しています(Contributions to Mineralogy and Petrology、DOI: 10.1007/s00410-026-02351-8、2026年8月4日公開・査読済み)。出てきたのは約7.5万年前・4.8万年前・2.5万年前の3回のパルスで、広い範囲の火山がほぼ同時に噴いたとされます。ただし「次がいつか」を言える結果ではありません。

ドイツ西部、ライン川の西に広がるアイフェル地方には、丸い湖が点々とあります。プルファーマール、メールフェルダー・マール、ダウナー・マーレ。夏には人が泳ぎ、周りには遊歩道が整えられ、観光の案内板が立っています。

これらはいずれも火口です。地下に上がってきたマグマが地下水に触れ、水蒸気爆発で地面をくり抜いてできた穴に、水が溜まったものです。この形の火山はここで最初に学術的に記述され、地元の呼び名がそのまま火山の型名になりました。マールという言葉は西アイフェル産です。世界でもっとも数の多い火山の型のひとつでもあります。

それだけ有名で、それだけ調べられていそうな場所なのに、基本的なことが空白でした。この100個以上の火山が、それぞれいつ噴いたのか。今回の発表は、まずその空白の理由から説明しています。


測る材料が、マグマの中に入っていない

火山の年代を決めるとき、地質学者は噴出物に含まれる鉱物を使います。鉱物の中に取り込まれた放射性元素が一定の速さで別の元素に変わっていくので、その量の比を測れば「いつ」が出ます。時計に相当する鉱物が要る、ということです。

この用途でよく使われるのがジルコンです。硬く、化学的に安定で、ウランやトリウムを取り込みやすい。ところがアイフェルのマグマにはジルコンが結晶しません。マグマの化学組成がジルコンを作る条件から外れているためです。時計そのものが噴出物の中に無い状態で、従来の手法はここでほとんど手詰まりになっていました。

チームが選んだのは、迂回路でした。マグマが地下から上がってくる途中で、通り道の岩壁を削り取って一緒に持ち上げることがあります。地殻の破片がそのまま噴出物に混じって地表に出てくる。この「よそ者の石」を捕獲岩と呼びます。

この迂回が必要だったのは、アイフェルのマグマ自体はジルコンを含まないのに対し、地殻の捕獲岩はふつう大量に含んでいるからです。

ハイデルベルク大学地球科学研究所で研究する博士課程のアンネ・シュトゥルム氏の説明です。噴火した物質そのものに時計が無いなら、噴火が地表へ連れてきた石の中の時計を読む。発想としてはそういう置き換えになります。

ヘリウムは、結晶が「いつ冷えたか」を覚えている

ここで一つ、ややこしいところがあります。捕獲岩のジルコンは地殻の岩石に由来するので、結晶そのものは噴火よりはるか昔にできています。結晶の誕生年を測っても、噴火の年にはなりません。

使われたのは (U-Th)/He 法という手法です。ジルコンに含まれるウランとトリウムは、既知の速さで崩壊してヘリウムになります。このヘリウムには、温度で振る舞いが変わるという性質があります。高温では結晶の外へ逃げていき、冷えると結晶の中に留まって溜まりはじめる。

つまり測っているのは、結晶が生まれた時刻ではありません。結晶と周りの岩が高温から冷えた時刻です。捕獲岩は上昇するマグマに包まれて加熱され、それまでのヘリウムを失います。そして噴火で地表へ放り出され、急速に冷える。この瞬間からヘリウム時計が動き出す、という読み方になります。溜まったヘリウムの量を測れば、噴火の時刻が出る理屈です。

年代測定の手法の多くは「何が測れるか」ではなく「何をリセットできるか」で選ばれます。この場合、リセットボタンを押したのは噴火そのものでした。

出てきたのは、なめらかな歴史ではなかった

この方法で、西アイフェルの代表的なマールについて初めて筋の通った年代の並びが得られたと報告されています。並べてみると、活動は途切れなく続いてはいませんでした。

噴火エピソード報告されている内容
約7.5万年前3回のパルスのうち最も古いもの
約4.8万年前2番目のパルス
約2.5万年前最も新しく、最も激しい。ダウナー・マーレとプルファーマールが形成された。最終氷期の最も寒い時期にあたる

それぞれのパルスでは、西アイフェルの広い範囲にある複数の火山がほぼ同時に噴いたとされます。散発的に一つずつ噴いていったのではなく、まとまって噴いて、あとは静かになる。そういう動き方です。

大陸の内側にあるこの種の火山地帯は、長い時間をかけて一定の割合で活動を続けるものだと想定されてきました。カーティン大学の同位体地質学・岩石学の研究者で、ハイデルベルク大学地球科学研究所の兼任研究員でもあるアクセル・シュミット教授は、その想定に対してこう述べています。

私たちの研究は、従来の想定に反して、大陸の火山地帯が定常的な火山活動にさらされているのではなく、短く、時には非常に激しい爆発的な活動期に入りうることも示しています。

温暖化が引き金という筋書きとは、順番が合わない

年代が並んだことで、別の議論にも数字が入りました。これまでの一部のモデルは、火山活動を間氷期の温暖化とそれに伴う海水準上昇に結びつけて説明してきました。氷が融け、水の重みの分布が変わり、地下の圧力条件が動く。筋としては理解できる話です。

ところが今回の年代順では、噴火期の開始とピークが北海盆の顕著な海水準低下と時期的に重なると報告されています。もっとも激しかった約2.5万年前は最終氷期のいちばん寒い時期です。温暖化が引き金という筋書きとは、順番が逆になります。

ここは慎重に読みたいところです。時期が重なることは、原因であることの証明ではありません。海水準の低下が地殻の応力にどう作用し、それがどうやってマグマの上昇を促したのか、その道筋は今回の報告に含まれていません。示されたのは、従来モデルが要求する時間の順番と、実測された年代の順番が合わないという事実のほうです。

どこまで言えて、どこから言えないか

限界を四つ書いておきます。

一つめは手法の再現性です。起源も年代も組成も組織も異なる捕獲岩に同じ手法を当てたとき、結果がどれだけ揃うのか。これは単一の爆発的噴火については調べられてこなかった問題で、今回の研究自体がそこに取り組んだものだと位置づけられています。年代モデルが立ったことと、手法が完成したことは別です。

二つめ。約2.5万年前は「今回年代づけされたパルスのうち最も新しいもの」であって、この地域の最後の噴火ではありません。西アイフェルには別の研究で年縞や放射性炭素から約1.1万年前と見積もられているウルメナー・マールがあり、これは3回のパルスより後になります。

三つめ。なぜ複数の火山がまとまって噴くのか、その仕組みは示されていません。パルスの存在は年代の並びから読み取られたもので、地下で何が起きて同期したのかは別の証拠を必要とします。

四つめ。西アイフェルで見えたことが、他の大陸内火山地帯にも当てはまるかは未確認です。この型の火山地帯は世界中にあり、多くが人の住む場所や観光地になっています。だからこそ一般化したくなりますが、同じ手法での年代づけを他の地域でも積む必要があります。

そのうえで、防災の議論への意味は小さくありません。ハザード評価は「単位時間あたり何回噴くか」という発生率を土台にすることが多いのですが、活動がパルス状なら、平均した発生率は静かな時期を過大に、活発な時期を過小に評価します。研究チームもこの点を、火山ハザード評価を改善する土台になりうるとしています。ただし、次のパルスがいつ来るかを予測できる結果ではありません。

次に確かめられること

私がこの報告で面白いと思ったのは、結論よりも順番のほうでした。年代が分からないという壁に対して、測定精度を上げるのでも新しい装置を作るのでもなく、「測れる材料が噴火に巻き込まれて出てきていないか」を探した。同じ困りごとを抱えた火山地帯は他にもあるはずで、この迂回路が使えるなら、空白の埋め方が一つ増えます。

次に確かめられるのは、同じ手法を東アイフェルや他の大陸内火山地帯に当てたときに、パルス状の活動が同じように出てくるかどうかです。そこで出れば、この型の火山地帯の性質だと言えるようになります。出なければ、西アイフェル固有の条件を探すことになります。再現性の確認が、そのまま次の問いになる形です。

今度あの湖のどれかを地図で見かけたら、水面の丸さを少し疑ってみてください。あれは、2万5千年前に地面が吹き飛んだ跡です。

出典:A. Sturm, A. K. Schmitt, M. Danišík, I. Dunkl. “Eruptive pulsing of maar and scoria cone clusters in the West Eifel volcanic field, Germany, during the last glacial maximum revealed by zircon (U-Th)/He dating of crustal xenoliths.” Contributions to Mineralogy and Petrology(2026年8月4日公開・査読済み)。DOI: 10.1007/s00410-026-02351-8/ハイデルベルク大学プレスリリース No. 88/2026「New Findings on the Eruption History of the West Eifel Maar Volcanoes」(2026年8月4日)。引用したシュトゥルム氏・シュミット教授の発言、3回のパルスの年代、海水準低下との時期の一致は同プレスリリースに拠ります。研究資金はドイツ研究振興協会(DFG)とオーストラリア政府のNCRIS。ウルメナー・マールの約1.1万年前という年代は本研究とは別の先行研究(年縞・放射性炭素による年代測定)に基づく参考値です。
EDITOR'S NOTE — サグル:原典に当たって手が止まったのは、ヘリウムが高温で逃げるという当たり前の性質が、そのまま噴火の時計になっているところでした。逃げてしまう性質は普通なら測定の邪魔者です。それを「一度きれいに空になる」という利点として読み替えると、噴火という出来事そのものが時計のリセットボタンになる。困った性質の使いどころを探すという作業は、地質学に限った話ではないと思いながら読みました。

編集責任者Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.08.05
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