スイスの庭に、下着が埋まっています。理由は、土の元気を確かめるためです。
要点:チューリッヒ大学とアグロスコープ(スイス連邦農業研究センター)が2021年に始めた市民科学プロジェクトで、1,000人の市民がスイス各地の約1,000か所に2,000枚を超えるコットン下着を埋め、2か月後に分解の進み具合を土壌の生物活動の指標として調べました。下着がいちばん速く分解したのは家庭菜園の土、いちばん遅かったのは芝生の土。土地の使われ方が、測定した土壌の化学的な性質の多くよりも分解の速さを強く左右していたと、査読誌Plants, People, Planetに2026年8月24日付で報告されています。
スイスの庭に、下着が埋まっていました。新品のコットン下着です。土の中に暮らす生きものが、それをどれだけ食べたかを測るための道具でした。
埋めたのは、チューリッヒ大学(UZH)とアグロスコープ(スイス連邦農業研究センター)が2021年に始めた「Proof by Underpants(ドイツ語で Beweisstück Unterhose)」という市民科学のプロジェクトです。1,000人の市民が、決まった手順にしたがって、2,000枚を超えるコットン下着と12,000個のティーバッグを、スイス各地およそ1,000か所の土に埋めました。2か月後に掘り出し、写真を撮り、土のサンプルとともに研究室へ送る。ここまでが調査の手順です。
下着なら何でも良いのか。いいえ、同じ規格の製品を使う必要があります。素材や織り方が違うと分解の速さも変わってしまい、地点どうしを比べられなくなるからです。標準化された下着だからこそ、スイス中の土を同じものさしで並べられました。
下着の姿が、土の元気を映す
結果は、2026年8月24日付で学術誌Plants, People, Planetに査読を経て掲載されました。研究を率いたのはアグロスコープのフランツ・ベンダー博士と、チューリッヒ大学のマルセル・ファン・デア・ハイデン教授(農業生態学)ら。約240人の市民科学者が論文の共著者として名を連ねています。
ものさしにしたのは、下着の分解の速さです。土の中の生きもの——ミミズや菌類、細菌など——が活発なほど、コットンという有機物は速く姿を消していきます。生きものが乏しい土では、2か月たっても下着はほぼ形を保ったままでした。
いちばん速かったのは家庭菜園、遅かったのは芝生
下着の分解がいちばん速かったのは、家庭菜園の土でした。土壌有機物や養分の量が多く、ミミズや菌類、細菌にとって条件の良い環境だったためです。反対にいちばん遅かったのは芝生。畑や牧草地は、その中間に位置していました。
| 土地の使われ方 | 下着の分解速度 | 報告された背景 |
|---|---|---|
| 家庭菜園 | 最も速い | 土壌有機物・養分が最も豊富 |
| 畑・牧草地 | 中間 | ー |
| 芝生 | 最も遅い | 生きものの活動が最も低調 |
研究グループは、土地の使われ方に加えて、養分の量など土壌の化学的な性質も測っていました。それでも、分解の速さをいちばん強く説明していたのは土地の使われ方のほうで、測った化学的な性質の多くより効いていたと報告されています。
「土をどう使うかが、土の中身を決める」
「今回の結果は、土の管理の仕方が土の中の生きものと質の両方に大きく影響しうることを示しています」と、ファン・デア・ハイデン教授は述べています。「健康で生物活動が活発な土は、肥沃さや養分の循環など、多くの生態系サービスにとって欠かせません」。
土の生きものを増やす手立てとして、研究グループは、土をむき出しにせず常に覆っておくこと、堆肥を加えること、輪作の作物を増やすこと、化学肥料や農薬の使用を控えることを挙げています。家庭の庭でも応用できる内容です。
速く分解すれば良いわけではない
ここで、ひとつ疑問が浮かびます。分解が速いほど土は優れているのか。ベンダー博士の答えは、単純な「速いほど良い」から少しずれていました。
「最大限の分解が、どの生態系でも望ましいわけではありません」とベンダー博士は言います。森のような自然に近い環境では、養分の水準が極端に高いことが、むしろ本来の養分バランスの乱れを示す場合があるといいます。庭でも、下着が速く分解しすぎるときは、養分を与えすぎている合図かもしれず、肥料の量を見直す価値があると指摘しています。
土の生きものの働きは、温度と水分にも強く左右されます。寒すぎたり乾きすぎたりする土では、生きものの活動そのものが鈍くなります。下着の分解が遅かったからといって、その土地の管理が悪いと即断はできません。
「下着指数」という名前のまま
研究グループは、この方法を「下着指数(underwear index)」と呼び、土の状態をわかりやすく示し、土壌の健康への関心を広げる手段として提案しています。名前を変えず、いちばん人を驚かせる形のまま学術誌に載せたところに、この調査のねらいが表れています。
1,000か所という規模は、1,000人の参加者がいなければ実現しなかった数字です。集まったデータはスイス全域におよび、同国の土壌生物についてこれまでで最も網羅的な記録のひとつになったといいます。参加者には見返りとして、自分の土地の分析結果や土壌管理のヒントが個別に届けられました。
編集責任者:Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.08.29
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