北海道で見つかった化石1点が、日本で初めて名前がついたよろい竜になりました
海沿いを好むこの仲間が、複数回アジアへ渡ってきた証拠も報告されています。
要点:北海道大学総合博物館の小林快次教授らの研究チームは、夕張市で1995年に見つかった化石を、日本産のよろい竜として初めての新属新種「ニッポノペルタ・エゾエンシス」と命名したと報告しました(査読あり・Cretaceous Research・2026年8月21日オンライン公開・DOI: 10.1016/j.cretres.2026.106477)。CTスキャンによる非破壊調査で頭骨の細部を復元し、系統解析からは北米・欧州のノドサウルス類と近縁であることが分かりました。海沿いを好むこの系統が、複数回にわたってアジアへ渡ってきた可能性を示す結果です。ただし分析のもとになったのは頭骨と歯、頸椎1点のみで、全身骨格による裏付けではありません。
1995年、北海道夕張市の川で見つかった恐竜の化石が、31年の時を経て新種と分かりました。北海道大学総合博物館の小林快次教授らの研究チームが化石を調べ直し、日本のよろい竜として初めて「ニッポノペルタ・エゾエンシス」と命名したと報告しています。査読を経て学術誌Cretaceous Researchに2026年8月21日付でオンライン公開された論文(DOI: 10.1016/j.cretres.2026.106477)に基づく発表です。
この化石は、最初から新種だと思われていたのか
そうではありません。1995年に発見されたときから、頭骨の一部と歯によって「ノドサウルス類」と呼ばれるよろい竜の一群に属することは分かっていました。ただし、そこから先——どの属・種にあたるのかは、長いあいだ確定していませんでした。
確定を妨げていたのは、化石が硬い岩(コンクリーション)に包まれたままだったことです。表面から観察できたのは頭骨の一部と歯に限られ、分類の決め手になる細かな骨の特徴までは見えていませんでした。
何が決め手になったのか
岩を削って直接見ればよいのでは。そうもいきません。化石を傷つけるおそれがあるため、研究チームは非破壊のCT(コンピュータ断層撮影)スキャンを使い、岩を削らずに内部の骨をデジタル上で復元しました。この方法で、これまで見えていなかった下顎の一部、完全な状態の歯2本、そして左の半規管(内耳のバランス感覚を担う部分)まで確認できたといいます。
ホロタイプ標本(種を定義する基準となる標本、番号MCM A522)は、頭骨の一部・最初の頸椎(環椎)1点・歯12本で構成されています。全身の骨格が見つかっているわけではありません。
「ニッポノペルタ・エゾエンシス」という名前の意味
新しい属名「ニッポノペルタ」はラテン語などを組み合わせた「日本の盾」を意味する語、種小名「エゾエンシス」は北海道の旧称「蝦夷地」に由来します。北海道大学などの発表によると、よろい竜類の新属新種の命名は日本で初めてで、日本産の恐竜としては14例目、北海道産としては3例目にあたるといいます。
系統解析で分かった、もう一つの意外な点
近縁というなら、日本の化石はアジアの系統でまとまっているのでは。実際はそうなっていません。研究チームの系統解析では、ニッポノペルタ・エゾエンシスは、これまで知られているアジアのノドサウルス類どうしよりも、北米・欧州の「パウパウサウルス」「パノプロサウルス」「エドモントニア」「デンバーサウルス」といった仲間に近い系統に位置づけられました。
「アジアでは、ノドサウルス類は主に日本と中国の中期白亜紀の地層で見つかっており、その産出数は北米・ヨーロッパのノドサウルス類に比べてはるかに少ない」(論文より・本紙訳)
地質年代の推定では、この個体が生きていたのは白亜紀後期、約9,600万年前から9,400万年前ごろとされています。
海を渡った恐竜、という見立て
研究チームは、化石の由来をさらにたどるため、祖先がどの地域で暮らしていたかを推定する解析も行いました。その結果、ニッポノペルタ・エゾエンシスに近い系統の祖先は、北米西部(ララミディア)・北米東部(アパラチア)・アジアの3地域にまたがって広がっていたと推定されています。よろい竜全体では沿岸の環境で誕生し、一部の系統は内陸へ移った一方、ノドサウルス類とニッポノペルタ・エゾエンシスは、海の影響を受けやすい沿岸・河口域を好む性質を保ち続けたと考えられています。この沿岸志向こそが、複数回にわたるアジアへの分散を可能にした要因の一つだと、研究チームは位置づけています。
まだ言い切れないこと
正直に書いておきます。今回の分析のもとになった化石は、頭骨の一部と歯、頸椎1点だけです。全身の骨格が見つかっているわけではなく、体の大きさや姿全体を復元した情報ではありません。また、祖先がどこにいたかを推定する解析は、限られた分類群どうしの系統関係をもとにした統計的な推定であり、実際にどの個体がいつどの経路を渡ったかを直接示す証拠ではない点にも注意が必要です。論文はCretaceous Researchの査読を経て掲載されていますが、化石1点にもとづく系統的な位置づけは、今後の新標本の発見によって見直される可能性があります。
31年前に川で拾われた化石が、あとから加わったCTスキャンという技術によって、ようやく名前と居場所を得ました。次に読みたいのは、同じよろい竜の全身骨格が日本のどこかで見つかる日です。
編集責任者:Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.09.05
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