単電子移動。
単電子移動(SET, single electron transfer)とは、ある分子(電子供与体)から別の分子(電子受容体)へ、電子1個だけが移動する反応の基本ステップ。
化学者は、そのままでは反応しにくい分子どうしを結び付けるために、電子のやり取りで一方または両方の分子を活性化させる手法をよく使います。単電子移動は、その活性化の中でもっとも基本的な単位で、医薬品の合成や高機能材料づくり、生体内の反応の再現など、幅広い場面で使われています。
誰が電子を受け取るか
二つの分子が同時に電子を受け取れる状態にあるとき、電子は基本的に、より還元されやすい(電子を受け取って安定になりやすい)側へ向かいます。この好みは分子の性質そのものに根ざしているため、狙った分子が還元されやすい側でない限り、思いどおりの反応を起こすのは難しいとされてきました。
選択性という壁
この「還元されやすい側が勝つ」という性質は、単電子移動を使った反応の選択性(狙った相手にだけ電子を渡せるかどうか)を長く制約してきました。近年では、電子をいったん溶液中へ自由な状態で放出し、最初に出会った分子へ渡してしまうことで、この制約を回避しようとする触媒も報告されています。この場合、選択性は電子が渡る瞬間ではなく、渡ったあとに何が起こるか(元の状態へ逆戻りしやすいかどうか)によって決まるとされます。
読み手の注意:単電子移動そのものは電子1個の移動を指す一般的な言葉で、特定の触媒や手法の名前ではない。「選択性」の話をするときは、何と何が電子を奪い合っているのか、その競争がいつ決着しているのかを分けて読むとよい。