生きもの — 2026.09.01 TUE NO.057 / TSUGINOTE SCIENCE

何千匹ものホタルが、寸分たがわず同時に光ります
その一斉のリズムをつくる規則を、暗闇でたった1匹に光を見せる実験で測った人たちがいます

夜の草むらで光るホタルを描いたイラスト。腹部の発光器がやわらかな光を放っている

要点:この記事で分かることを先に書きます。 アメリカ・コンガリー国立公園(サウスカロライナ州)では、5月になるとホタルの一種Photuris frontalisのオスが何千匹も寸分たがわず同時に光る一斉点滅が見られます。 コロラド大学ボルダー校の研究チームが2021年から2025年の5月にかけて、暗いテントの中で127匹のホタルを1匹ずつ、周期の異なるLEDの光にさらす実験を行いました。 LEDが自分の点滅の直前に光ると次の点滅を早め、直後に光ると次の点滅を遅らせるという、両方向に働く反応の規則(位相応答曲線)が初めて測定されました。 この規則を組み込んだ数理モデルでシミュレーションすると、実際の点滅パターンの分布をよく再現できたと報告されています。 この研究は査読前のプレプリントで、実験は1匹対1つの光という単純な条件に限られており、多数が同時に光る野生の群れにそのまま当てはまるかはまだ確かめられていません。

5月、コンガリーの沼

5月、アメリカ・サウスカロライナ州のコンガリー国立公園。日が沈んで小一時間。ホタル。何千匹も。ひとつの合図もないのに、群れ全体が同じ瞬間に光りだす、と研究チームは記しています。

沼にはヒノキの仲間が並び、樹齢数百年のものもあります。研究チームの一人、オーウェン・マーティンさんはこの光景を「地球がまだ人のいなかった頃はこうだったのだろうと思わせる」と振り返っています。きみたちは、示し合わせてなどいません。それなのに、光の間隔が群れ全体でそろっていきます。

北米のホタルでは、測られていなかった

この一斉点滅を起こすのはPhoturis frontalisという種の、成虫になったオスです。東南アジアのPteroptyx属のホタルで一斉点滅が起きることは以前から知られ、個体どうしがどう影響し合っているのかも研究されてきました。けれど北米のホタルについては、1匹の光が別の1匹の点滅のタイミングをどれだけ、どちら向きに変えるのかを直接測った実験が、これまで無かったと研究チームは述べています。この「どちら向きにどれだけ」をまとめた関数を、専門的には位相応答曲線と呼びます。

暗いテントの中で、1匹に光を見せる

コロラド大学ボルダー校のオーウェン・マーティンさんとオリット・ペレグ准教授の研究チームは、2021年から2025年にかけて毎年5月、コンガリー国立公園に通いました。外の光がいっさい入らないテントの中に、1匹のオスのホタルを透明なケージに入れて置きます。半径50センチの位置に波長585ナノメートルのLEDを1つだけ用意し、明るさはホタル自身の光とほぼ同じ程度まで抵抗で絞りました。

まず何もしないまま70秒ほど記録し、そのホタルがふだんどんな間隔で光るかを確かめます。自然な点滅間隔は、だいたい1秒に1回から2回のあいだでした。そのあとLEDを、300ミリ秒から1000ミリ秒までのあいだの一定の周期で光らせ続け、ホタルの反応を4分から10分間、カメラで撮影します。この手順を127匹ぶん繰り返し、動画からすべての点滅の瞬間を読み取りました。

光を先に見せると急ぎ、後に見せると待つ

結果はこうでした。LEDが、ホタル自身の次の点滅より少し早いタイミングで光ると、ホタルは自分の点滅を急がせて合わせにいきます。逆にLEDが少し遅れて光ると、ホタルは次の点滅を先延ばしにして合わせようとします。研究チームは、これを混んだコンサート会場で手拍子に合わせようとする観客にたとえています。

ただし、どんな光にも反応するわけではありません。LEDの周期が自分の自然な点滅とかけ離れているとき(実験では300ミリ秒のように速すぎる場合など)、ホタルはたいてい光を無視しました。逆にLEDの周期が自分の周期に近いほど、反応の大きさも増しました。早く見せても遅く見せても反応する、この両方向の形はタイプIIの位相応答曲線と呼ばれます。神経細胞の発火や体内時計の同期でもよく見られる形だと、研究チームは述べています。

FIG. LEDのタイミングに対するホタルの3つの反応/模式図 ● ホタルの点滅 ◇ LEDの点滅 ① LEDが直前に光る → 次の点滅を急ぐ 本来の点滅予定(点線)より早く光り、間隔が縮む ② LEDが直後に光る → 次の点滅を遅らせる 本来の点滅予定(点線)のあとに光り、間隔が伸びる ③ LEDの周期が違いすぎる → 無視する LEDは速く光り続けるが、ホタルは自分の間隔を保つ 位置と間隔は説明のための模式で、実測データそのものではありません

数式にして、もう一度確かめる

研究チームは、測定した反応の規則を積分発火モデルという数式に組み込み、コンピューターの中でホタルとLEDのペアを再現しました。シミュレーションで出てきた点滅間隔の分布は、実際に記録した分布とよく重なったと報告されています。反応の規則を測っただけでなく、その規則から本物に近い動きを予測できることまで確かめた、という段階です。

まだ確かめられていないこと

この研究は2026年1月に公開された、査読前のプレプリントです(2026年3月にアメリカ物理学会の会合で発表されています)。いくつか、はっきりさせておきたい限界があります。

まず、実験は1匹のホタルと1つのLEDという組み合わせに限られています。野生の群れでは、何十匹、何百匹もの光が同時に視界に入ります。複数の光が見える状況で反応がどう変わるかは、研究チーム自身も今後の課題だと述べています。次に、気温が点滅の間隔を変えることは知られていますが、反応の規則そのものが気温でどう変わるかは、この実験では調べられていません。そして、光をだまして仲間のオスをおびき寄せる肉食性のホタル(同じPhoturis属の一部の種)が、この規則をどう回避しているのかも、まだ測られていません。

身近で観察できること

日本でこの規模の一斉点滅を見る機会は多くありません。それでも、光ではなく音でリズムを合わせる生きものは身近にいます。9月の夜、庭や公園でスズムシやコオロギの鳴き声を聞き比べてみてください。ばらばらだった鳴き声が、近くの個体どうしでそろって聞こえてくる瞬間があるかもしれません。ホタルの光と虫の声、伝える手段は違っても、近くの合図に合わせて自分のリズムを微調整するという仕組みは、共通しているのかもしれません。

出典:Martin O., Jayaram K., Peleg O. et al. "Excitation–inhibition interactions mediate firefly flash synchronization"(Photuris frontalisの位相応答曲線に関するプレプリント・査読前・2026年1月19日公開)bioRxiv/Strain D. "In a South Carolina swamp, researchers uncover secrets of firefly synchrony," CU Boulder Today(2026年3月12日)colorado.edu/関連の発表要旨はアメリカ物理学会 2026 Global Physics Summit(2026年3月16日〜19日、デンバー)の公開プログラムに掲載(CU Boulder Todayの記事内にリンクあり)。
EDITOR'S NOTE — メデル:いちばん引っかかったのは、光が合わなすぎるとホタルが無視する、という一文でした。合わせにいく反応より先に、合わせない範囲があることのほうが、私には規則らしく見えました。測って終わりにせず、その規則を数式に入れ直して本当に同じ動きが出るかまで確かめてから報告する手順も、丁寧だと思います。査読前のプレプリントなので、この先の査読でどこが直るのか、続きも追ってみます。

編集責任者Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.09.01
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