レモンの形に歪んだ惑星の内側で、ダイヤモンドが静かに降っているのかもしれません。
要点:NASAのジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が、パルサー(高速で自転する中性子星)を回る系外惑星「PSR J2322-2650b」を観測しました。木星ほどの質量のこの惑星は、パルサーの強い潮汐力でレモン形に歪んでいると見られています。大気からは水・メタン・二酸化炭素ではなく分子状炭素(C2・C3)が直接検出され、シカゴ大学のマイケル・チャン氏らの研究チームが査読誌The Astrophysical Journal Lettersに2025年12月16日付で報告しました(DOI: 10.3847/2041-8213/ae157c)。ヘリウムが優勢な大気組成、すす雲、内部でのダイヤモンド生成、レモン形そのものは、いずれも直接見えたものではなくモデルによる推定です。どんな形成の仕組みでもこの組成は説明できないと、研究チーム自身が述べています。
同じ天体の中に、灼けつく面と凍える面が同居しています。夜側でも摂氏およそ649度、昼側では摂氏およそ2,038度。人間の言葉でいう「暑い」の外側にある温度です。この極端な差を抱えた天体こそ、パルサーという特殊な星を回る系外惑星「PSR J2322-2650b」です。
パルサーは、太陽ほどの質量を、街ひとつぶんの大きさに押し込めた中性子星です。この星は1秒間に285回ほど自転しているとみられ、規則正しい電磁波のビームを灯台のように放っています。PSR J2322-2650bは、そのパルサーからわずか約160万キロ——地球から月までの距離のおよそ4倍、地球と太陽の距離のおよそ100分の1という近さを回っています。一周にかかる時間は7.8時間。この惑星では、一年が半日にも満たないのです。
主星が、望遠鏡に映らない
ふつう、系外惑星の観測でいちばん厄介なのは主星の明るさです。恒星の光がまぶしすぎて、すぐそばの惑星はかき消されてしまいます。今回はその逆が起きました。
このミリ秒パルサーが放つのは主にガンマ線やその他の高エネルギー粒子で、ウェッブの赤外線の「目」には映りません。主星が見えないぶん、惑星だけの光を軌道のどの位置でも読み取れる状況が生まれました。研究に加わったスタンフォード大学の博士課程3年目、マヤ・ベレズネイ氏はこう述べています。
「この系が特別なのは、恒星にはまったく照らされずに惑星の光だけを見られる点です。だからこそ、混じりけのないスペクトルが得られ、ふつうの系外惑星よりずっと詳しく調べられます」(NASAの発表、2025年12月16日)
あるはずの分子が、そこにはなかった
水はあるだろうか。メタンは。二酸化炭素は。ウェッブが実際に見つけたのは、そのどれでもありませんでした。研究を率いたシカゴ大学のマイケル・チャン氏は、次のように振り返っています。
「この惑星が回っているのは、太陽ほどの質量で都市ほどの大きさという、まるで不条理な星です。見つかったのは、これまで誰も見たことのない種類の惑星大気でした。水やメタン、二酸化炭素という、系外惑星でふつうに見つかる分子の代わりに、私たちが見たのは分子状炭素、具体的にはC3とC2でした」(NASAの発表、2025年12月16日)
分子状炭素は、酸素や窒素がほとんど存在しない場合にしか大気の主成分になりません。高温では、炭素は他の原子があればすぐに結びついてしまうからです。共著者のピーター・ガオ氏(カーネギー地球惑星研究所)は「データが降りてきたときの私たちの反応は『これは一体何だ』でした。想定していたものとは、まったく違っていました」と述べています。太陽系の内外でこれまで調べられたおよそ150個の惑星のうち、分子状炭素が検出されたのはこの惑星が初めてです。
見えたことと、まだ見えていないこと
ここで、確からしさの線を引いておきます。今回の発表には、直接の分光観測から分かったことと、そこから組み立てたモデルによる推定が混ざっています。
| 分かったこと | その根拠 |
|---|---|
| 分子状炭素(C2・C3)が大気の主成分 | ウェッブによる分光観測で直接検出 |
| 水・メタン・二酸化炭素が見当たらない | 同じ分光観測での非検出 |
| ヘリウムが優勢な大気組成 | 観測結果を説明するモデルによる解釈 |
| すす雲、内部でのダイヤモンド生成 | 組成と温度構造からの理論的な推測 |
| 惑星がレモン形に歪んでいる | 軌道上の明るさの変化を再現するモデル解析 |
レモン形という見た目は、望遠鏡がその輪郭を撮ったわけではありません。明るさが軌道のどの位置でどう変わるかを計算モデルで再現した結果、パルサーの潮汐力による変形として説明がついた、という順序です。
「黒後家」の巣に囲まれた、ただし違う相手
パルサーとその周りを回る小さな伴星の組み合わせは「ブラックウィドウ(黒後家)系」と呼ばれることがあります。パルサーの風と放射が伴星をゆっくり蒸発させていく——名前の由来である、獲物を食べ尽くすクモになぞらえた呼び名です。ただし今回の伴星は、正式には恒星ではなく系外惑星として扱われています。国際天文学連合は系外惑星を「恒星、褐色矮星、あるいはパルサーのような恒星の残骸を回る、木星質量の13倍未満の天体」と定義しており、この惑星はその定義に収まる質量です。これまでに知られている6,000個ほどの系外惑星のうち、ホット・ジュピターに似た質量・半径・温度でパルサーを回っている例は、これが唯一とされています。
誰も、生まれ方を説明できていない
ふつうの惑星と同じようにできたのか。チャン氏は「違います。組成がまったく異なるからです」と答えています。では、伴星が主星の重力に外側を剥ぎ取られてできる、典型的なブラックウィドウ系の成り立ちなのか。これも「おそらく違う」というのがチャン氏の見立てです。核物理は純粋な炭素を作り出さないため、これほど炭素に富んだ組成をどう得たのか、想像するのが難しいといいます。知られているどの形成の仕組みも、除外されてしまうように見える、とチャン氏は述べました。
共著者のロジャー・ロマーニ氏(スタンフォード大学・カブリ素粒子天体物理学研究所)は、ひとつの筋書きを示しています。「伴星が冷えていく過程で、内部の炭素と酸素の混合物が結晶化を始めます。純粋な炭素の結晶が浮き上がり、ヘリウムに混ざり込む——見えているのはそれかもしれません。ただし、酸素と窒素だけを遠ざけておく何かが必要で、そこが謎です」と述べたうえで、「すべてが分かっていないのも、悪くありません。この大気の奇妙さについて、もっと知りたいと思っています。挑みがいのある謎ができました」と続けています。
瞬きのあいだに、80回以上
数字を、もう少し手のなかに置き換えておきます。このパルサーの自転周期はおよそ3.5ミリ秒。1秒間に285回という速さは、実感が湧きにくい数字です。人がまばたきする時間をおよそ0.3秒とすると、そのまばたき一回のあいだに、このパルサーはおよそ85回自転している計算になります(この換算は本紙による)。目を閉じて開けるまでのあいだに、何十回転もの自転が終わっている——そういう星のそばを、レモンの形をした惑星が、わずか7.8時間で一周しています。
まだ言い切れないこと
正直に書いておきます。この惑星までの距離は、パルサーの電波タイミング観測から推定された年周視差にもとづき、およそ230パーセク(誤差はプラス90、マイナス50パーセク程度)、光年に直すとおよそ750光年とされています。ただしこの誤差の幅を考えると、実際の距離は600光年台から900光年台まで広がる可能性があります。また、ヘリウムの優勢・すす雲・ダイヤモンドの生成・レモン形という見た目は、いずれも観測結果を説明するために組んだモデルの解釈であり、望遠鏡が直接その姿を撮ったものではありません。今回の論文は査読を経て掲載されていますが、形成の仕組みそのものは、この研究チーム自身が「既知のどの仕組みでも説明がつかない」と認めている、開いたままの謎です。
望遠鏡がまぶしい主星に阻まれず、惑星の光だけを丸ごと受け取れる場所は、そう多くありません。この惑星は、たまたまその条件に収まっていました。次に望みたいのは、同じように主星の陰に隠れず観測できる系がもうひとつ見つかり、この炭素だらけの大気が、この惑星だけの特殊事情なのか、それとも同じような環境がどこかに共通して作る姿なのかが分かる日です。
編集責任者:Tatsuki Morohashi(発行人・運営者情報) / 最終更新:2026.09.06
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