分子時計。
分子時計(molecular clock)とは、遺伝子の変異がおおむね一定の速さで蓄積するという仮定を使い、配列の違いの量から系統が分かれた年代を推定する考え方。
二つの系統の配列を並べて違いを数え、その差を「1年あたりに何塩基変わるか」で割れば、分かれてからの時間が出る——というのが基本の発想です。化石が乏しい生物や、そもそも化石を残さないウイルスの歴史を追うときに使われます。
速さをどう決めるか
肝心の「1年あたりの変化量」は、外から与える必要があります。地質学的な年代が分かっている化石や、採取年が記録された標本、あるいは今回のように年代の推定された古い試料が校正点になります。年代の異なる複数の配列が手に入ると、時間と変異量の関係を直接引くことができ、推定の信頼性が上がります。古代DNAの1本が重視されるのは、この校正点としての価値によるところが大きいものです。
一定ではない
ただし変異の速さは、生物種によっても時期によっても変わります。世代時間、集団の大きさ、選択圧の強さ、宿主環境の変化などが効くため、単純に一定と置くと推定が偏ります。現在は、枝ごとに速さが変わることを許す「緩和分子時計」という枠組みが広く使われ、推定値は一つの数字ではなく幅(信用区間)で示されるのが普通です。
補足:推定年代は仮定とモデルに依存するため、同じデータでも手法が違えば値が動く。分岐年代と、その系統が実際にある場所へ到達した年代は別のもの。